足立朝日

俳優 古川龍太さん(29歳)

掲載:2011年6月5日号
足立区在住
人生を賭けてやる価値がある


 ひょろりとした長身から発散される、自在で伸びやかな存在感。3月にシアターコクーンで上演された井上ひさし追悼公演「日本人のへそ」で、ヤクザの弟分など13役を演じた。ユーモアと風刺に富んだ舞台は、エネルギッシュな役者たちによって、連日観客を笑いに引き込んだ。
 一度だけ、それが途切れた。3月11日、東日本大震災で鉄道が止まり、自宅のある千住から出られなかった。出演者も客も劇場にたどり着けない異常事態に、2日間の休演となった。
 役者を目指して石川県から上京。05年に40倍の難関を突破し、新国立劇場演劇研修所一期生として3年間学んだ。国が育てた日本初の俳優の誕生である。以来、舞台に立ち続け、初めて体験する休演。その理由も含めて衝撃は大きかった。
 余震が続く中での公演再開は、「1~2週間は興奮状態だった。舞台の上で死ねるなら本望。毎公演ごとに、3時間後に生きているかどうかわからない、と大袈裟じゃなく思っていた」と振り返る。
 満席となった振替公演は、「役者として一生のうちに何度あるかという、奇跡的な公演」になった。震災の影響を押してまで劇場に足を運んだ客たちのエネルギーは、舞台上の役者をも圧倒。爆笑に継ぐ爆笑に、「演っている僕らも泣きそうになるくらい」。
 自粛ムードの中、演劇や音楽の優先順位が低く見られる一方で、現実を忘れさせてくれる非日常空間の存在意義が再認識された時期でもある。それは、役者たちにとっても同様だったに違いない。
 「世の中に必要な職業だと確認。それを全うする責任が自分にはあると感じた。それまでは楽しい、好き、楽しませたい、だったが、人生を賭けてやる価値のある仕事」。確かな手応えを語る言葉に、自負も覗く。
 次の舞台はまだ未定。3年間走り続け、初めての空白期間が新鮮という。有意義に使おうと、一人芝居(★)を企画。「足立区にはいい劇場があるのに、あんまり目立っていないのがもったいない。劇場と地域民を結び付けられれば」。いつかシアター1010の舞台にも出たい、と話す眼差しは、限りない未来の可能性を内に秘めて、力強い。
★6月24日(金)午後7時開始、COSMIC SOUL (千住1‐22‐9‐2F 北千住駅西口徒歩6分、TEL3882・7050)で。