足立朝日

この本

掲載:2020年5月5日号
★「市川森一 古事記」市川森一著/映人社刊(1600円+税)
 「傷だらけの天使」「淋しいのはお前だけじゃない」など数々のテレビドラマヒット作を作り続けた放送作家・作家の市川。
 晩年に心を寄せて取り組んだのは「古事記」だった。同書は、平成17年から19年まで、3年間にわたり、毎年11月にNHK・FMで特集オーディオドラマとして放送された「ドラマ古事記」の脚本を書籍化したもの。
 アナウンサーの加賀美幸子を語り部に、石坂浩二が太安万侶・イザナキ・スサノオ・オオクニヌシ・ヤマトタケルなど、戸田恵子が稗田阿礼・イザナミ・アマテラス・クシナダヒメ・ウサギなど、江守徹が藤原不比等、森繁久彌が天の神、その他多くの著名人が声の出演をした大作だ。
 同書により、広く読まれ、語られてきた「因幡の白兎」は、「古事記」の中の物語であることを初めて知る人もいるだろう。聞き覚えのある人物が、古の世界から現代に黄泉がえり、会話を通して物語が進行する様子をイメージしながら楽しめる逸品。
 生前、市川は「日本という国のルーツ」に興味を持った。日本誕生の神話から出発し、国造りの理想を求める「古事記」は、「自分たちはいかなる民族か?」「大王(天皇)の原点はどこか?」などの民族の原点探しであると市川は考える。1300年余の時を経て、「現代の日本の在り方」を改めて考える時、時空を超えて繰り広げられるこの人間ドラマが、良い指南書になるだろう。