
この書の副題「皇室は聖徳太子の血統を継いでいた」と帯の宣伝文句「日本書紀には暗号が隠されていた!それを解読すれば見えてくる」「真の聖徳太子=蘇我の入鹿」というのが、本書が展開する主題である。
著者の飛鳥探真さん(74)は、宮城県南三陸町出身で、足立区在住のはり灸師だ。飛鳥さんは、文庫本2冊の中に収められた日本書紀を徹底的に読み返し、さらに万葉集まで読み進む中で、「日本の歴代天皇が聖徳太子の血統を継いでいる」こと、「日本の天皇には日本と朝鮮の血統が流れている」こと、「長野県の善光寺は聖徳太子を祀る寺だった」こと、「奈良・藤ノ木古墳に収められていた遺体は聖徳太子とその妃の膳部夫人である」こと、「万葉集は、聖徳太子によって始められた」ことなどが次々と明かしていく。
これらは、「明治維新以降、日本の歴史研究のアカデミーにおいて『日本書記』に書かれたことが日本の正史であり、その記載内容は正しいという前提を覆す」ものばかりだ。
著者は、「嘘の土台の上に真実の社会を打ち立てることはできないのではないでしょうか」とし、「日本書紀によって隠された日本の歴史の真実を取り戻すことは、日本が真実に根ざした新しい社会システムへと進むために避けては通れない課題だと思われる」と力説する。
飛鳥さんのような「歴史アカデミーに縛られない、自由な立場の民間の歴史愛好家」が337頁の本書で行う「歴史検証」が、日本の歴史と民主主義の発展にとって、極めて意義のある作業であることは言うまでもない。

心が疲れすぎてしまった時、もし、自助グループからの誘いがあり「ようこそ、<銀色の国へ>。ここは心から安らげることを目指した安全地帯です」と優しくささやかれたなら、多くの人々がその世界へ行きたいと願うのではないだろうか?
母親を亡くし、父親との関係がこじれ始め、失恋も体験した浪人生の「くるみ」は、「死にたい」というツイートを繰り返す。ある日、フォロワーから<銀色の国>への招待を受け、VRで観ることができる美しい世界にはまり込む。一方、自殺対策NPO法人<レーテ>の代表「晃佑」は、友人の死に疑念を抱き、死因を調べるうちに、身の毛もよだつ恐ろしい事実に辿り着く……。
同書は、足立区在住の「第36回横溝正史ミステリ大賞」受賞作家・逸木裕氏による最新作。ウェブエンジニアである同氏のVRに対する豊富な知識が、まるで<銀色の国>が実在するかのような錯覚を読者に与える。東京をくまなく歩いたであろう足跡が、建物や地名などに反映され、実際に発生した集団自殺事件にも触れていることから、ストーリーがリアリティをもって読者に迫る。ホルン奏者でもある同氏が、その豊かな感性と鋭い洞察力をもって、自殺防止のために身を粉にして働く人々にも焦点をあてた想いは深い。
ミステリー好きの読者のみならず、今、辛い想いをしている人にこそ手に取ってほしい1冊だ。