足立朝日

日々の愛しさに気づく 介護離職をつづった小説 「らいんらいんらいん」 江北在住 阿居上央さん

掲載:2020年9月5日号
 仕事を辞めて認知症の父を介護――にと聞くと、孤独でつらい苦労話をイメージする。だが大変な日々の合間には、散歩中に感じる季節の変化、買い物ついでの喫茶店、なにげない交流など、自分の時間と大切に向き合うことで気付くこともある。
 40代男性のそんな日常をつづった短篇小説「らいんらいんらいん」。大きな事件や変化はないが、不思議と飽きることなくすんなりと読める作品だ。著者は江北在住の阿居上央さん(51)。プロの作家ではなく、小説執筆はこれが初めてという。
 阿居さんが海外赴任中の2015年、父がアルツハイマー型認知症を発症。離職し母と共に介護する中、「本屋にある介護本はハウツーや看取った後のことが書かれているものばかりで、先行きが不安な日々に寄り添う本があまりなかった」ことから執筆を思いつき、1週間で書き上げたそうだ。
 小説は12篇の日記形式で、父の変化、孤独と未来への不安、父母への愛情、自由な時間への喜びなど、等身大の心の揺らぎが丁寧に描かれている。タイトルには、社会との接点であるLINEゲームや喫茶店名、様々なものをつなぐ「線」などの意味が込められている。
 半分以上が実話だそうだが、介護現場の生々しい表現はない。「母子二人三脚でストレスを発散しながら介護のリズムを作れたことで、父の状態が安定したのだと思う。介護する側の不安が伝わるのでは。誰かの参考になれば」。父は2年前に他界したが、一時は奇跡的に要介護5から2に改善し、歩いてトイレに行けるまでになったこともあったそうだ。
 本の出版は3年前だが、病気や結婚で離職した人や、コロナ禍の中だからこそ共感してもらえるのではと、阿居さん。「在宅で日常の大切さに気付いた人もいるのでは。時間に追われず、何気ない日常への愛しさを感じて」
 現在は2冊目の出版を目指して、いじめをテーマにした作品を執筆中だそうだ。
 文芸社刊/ソフトカバー/1000円(税別)