足立朝日

この本

掲載:2022年6月5日号
★「女のいない男たち」村上春樹著/文藝春秋刊/748円(税込)
 アカデミー賞国際長編映画賞および、数々の国内外の賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の原作を収録した短編集。2016年10月の第1刷から2022年4月までに第16刷を記録している。
 同作品を皮切りに、「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」を収録。
 村上は、長編・短編に限らず、依頼を受けてから小説を書くのではなく、書き上げてからその作品に適した雑誌や出版社に持ち込むスタイルを取っているため、分量や期日に縛られることなく、表現者として自由に執筆している。左記6編のうち、最初の「ドライブ・マイ・カー」を執筆している時から、「女のいない男たち」というフレーズが頭から離れなかったという。1作目を書き終えた時点で、そのフレーズを柱として、一連の短編小説を書いてみたいという気持ちになったため、「ドライブ・マイ・カー」は、いわば同書の出発点となった。
 村上が一番推敲に時間を費やしたのは「木野」であるという。それだけに構成がよく練られ、なぜこのタイトルであるのかが読後にしっくりとくる。
 6編の総合タイトルに対応する表題作「女のいない男たち」は、村上の本領がフルに発揮され、いかにも村上らしい表現がふんだんに盛り込まれている。
 全編を通じて、1つのモチーフを軸に様々な男女が絡み合い、「傷ついた男」の内面を静かに見つめる手腕が見事だ。