足立朝日

これが最後のキネマ Vol.6

掲載:2010年9月20日号
「カラフル」
 今回は、森絵都の小説をアニメにした「カラフル」。
 「あなたは大きな過ちを犯して死んだ罪な魂です。しかし、もう一度下界に戻って再挑戦するチャンスが与えられました」――。こんな台詞で始まるこのアニメは、「罪な魂」が天使のはからいで、下界で自殺をした小林真の体に入り込み、再出発していく物語だ。
 真は中学3年。内気で、いじめの標的になっていた。落ち着く場所は自分が所属する美術部の部室。しかし、近所でふと出会ったクラスメイトの早乙女と仲良くなり、学校や家族の話をするようになる。両親と兄がいて、表面的には幸せそうな家族だが、実際は複雑な関係にある。真が自殺をはかり奇跡的に助かった後、晩ごはんを一緒にとる。残業を断り早く帰ってくる父親。母親も自分の手作りの料理を用意する。
 当然、話は真の進学問題に。普段、真と口をきかない兄から美術の専門コースがある芸術系の高校を勧められ、両親も喜ぶ。が、真は地元の公立高校に行くと言い出す。戸惑う家族に、親友と約束したことを涙ながらに訴える……。
 「はやまるな。友人、家族、世の中は決して捨てたものではない」というメッセージが響く感動的な作品となった。同じような題材を扱った映画「告白」には重苦しい「絶望」しかなかったが、このアニメには「希望」がある。若い人にぜひ見て欲しい。
 思えば家族が一緒に晩ごはんを食べたり、学生が放課後に道草をするなどは、ごく普通の生活だ。しかし、世の中が複雑化し、悪質化する中で、こうした生活が知らぬ間におろそかにされていった。
 監督は「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」など大人も楽しめるアニメを手掛けると評判の原恵一。東宝系で上映中。(児島勉)