足立朝日

これが最後のキネマ Vol.7

掲載:2010年10月20日号
「死刑台のエレベーター」(仏・オリジナル版)
 今回はフランス映画界で起きたヌーヴェルヴァーグ(映画革新運動)のキッカケとなった「死刑台のエレベーター」。折りしも緒方明監督、吉瀬美智子、阿部寛共演の日本製リメイク版が上映され話題となっており、これに合わせて仏・オリジナル版ニュープリントの公開となった。
 物語の主人公のジュリアン(モーリス・ロネ)は大企業のオーナーの側近。オーナーも頼りにしているほどの手腕の男。しかし、その裏ではオーナー夫人のフロランス(ジャンヌ・モロー)と不倫関係にあり、情事の果てにオーナーを自殺とみせかけて殺そうとする。完全犯罪は成り、二人は愛の逃避行へ、と思われた。が、ジュリアンが、現場に忘れた証拠品を取り戻すために乗ったエレベーターが突然止まり、閉じ込められてしまう。ここから二人のシナリオはもろくも崩れていく……。
 約束の時間に、待ち合わせ場所に現れないジュリアンに対して、懐疑心を抱くフロランス。しかし、自分たちの愛は簡単に壊れるものではない……。バー、ホテル、ゲームセンターと二人の愛を育んだスポットを訪ね回る。必死に歩き回るジャンヌ・モローの姿は、切ないほど胸をしめつけ、すさまじい迫力で圧巻。90分間を飽きさせぬ展開に次ぐ展開。まさにサスペンス映画の金字塔だ。
 さて、「50年前の仏映画のこの傑作は、果たして日本でよみがえるのか?」。リメイク版も見たが、やはりオリジナルにはかなわない。私には、単なる翻訳劇にしか映らなかった。オリジナル版は渋谷のシアター・イメージフォーラムで上映中(10月中旬)。ぜひ見て欲しい。本物のサスペンス映画を堪能してもらえるはずだ。
 監督は言うまでもなく、フランス映画の巨匠、ルイ・マル。本作品のほか、「恋人たち」、「鬼火」などがある。(児島勉)