足立朝日

これが最後のキネマ Vol.10

掲載:2011年1月20日号
「シャレード」
 今回、紹介する「シャレード」は1963年、ハリウッドで製作されたミステリー、コメディの傑作。数多くのミュージカルを世に送り出してきたスタンリー・ドーネン監督がその垢抜けたセンスで演出したおシャレな作品である。
 物語はフランスの観光地で、レジーナ(オードリー・ヘップバーン)が、友達とスキーを楽しむ場面から始まる。レジーナはすでに、夫との離婚を決意していて、少しもはしゃげない。パリのアパートに帰ると、夫の殺害を知らされる。困惑する彼女だったが、葬儀には知らない3人の男が現れ、おまけに大使館から呼び出される。大使館員によると、夫は第二次大戦中に軍資金25万ドルを横領した一味の片割れで、政府のお尋ね者だったという。途方に暮れるレジーナはスキー場で知り合って心惹かれたピーター(ケーリー・グラント)に助けを求める。が、彼も秘密だらけだった……。
 印象的なのは、3つの名前を持つことがわかったピーターを、レジーナが船上で詰問するシーン。「あなたは何者なの。知り合ってから2日の間に、3人の人間に変わるなんて……」と。
 ピーターの開き直り方が秀逸だ。顔の表情など全く変えずに身の上話を始める。自分は、スキー場で知り合った時は、資産家風の男爵で、亡き夫人の弟でもあり、さらには泥棒でもあると。レジーナは「どうせそんな話はフィクションでしょ」と応えながらも、内心ピーターにすっかり惹かれていた。
 彼女の心を奪った決め手は、ピーターの「紳士的な態度」。ありがちなパターンだが、純情でお嬢様育ちっぽいレジーナがこれにひっかかるのが面白い。彼が何処にでもいる男なら、あの手この手で迫ってくるに違いない。しかし、挑発されても一線を越えようとしない。ピーターの演技ではない、常にレジーナを大切に思う気持ちがそのまま出て、信頼関係につながったのだ。
 華やかなヘップバーンに対してグラントの堅実な存在感が見どころだ。
 TOHO六本木ヒルズの「午前十時の映画祭」で、3月5日(土)~3月11日(金)上映される。(児島勉)