足立朝日

Vol.18 心の涙

掲載:2007年6月20日号
心の涙
 小泉政権のときから話題になっていた国民の格差が、今では深刻な社会問題にまで発展してきた。年寄りのささやかな希望「安心な老後」までが格差の犠牲になっている。
  一人暮らしの年寄りの孤独死が増加しているというデータが、それを裏付けている。
 この「美しい国」では、ひどい目にあわされているのは動物だけではない。うまい選挙スローガンを連発している政治家に「豊かな老後生活」を約束されている年寄りにとっても、先進国では考えられない悲惨な現実が待ち受けている。
 親戚も友達もいない一人暮らしのおばあちゃんが、突然、病気になり入院することになった。この気の毒なおばあちゃんの、唯一の心の支えが2匹の小型犬チャッピーとルルだった。一人暮らしのうえ、仕方がなく、入院するあいだに飼っていた2匹の小 型犬を近くのペットショップに預けることにした。
 可愛い犬たちに一日も早く会いたいという気持ちを心に抱きながら、おばあちゃんはなんとか退院ができるまでに回復した。しかし退院はしたものの、おばあちゃんの体の調子は以前の状態までには戻らず、生活保護を受けながら専門の介護が必要になった。
  福祉が整っている先進国であれば、おばあちゃんは国の介護を受けながら、可愛い犬たちと一緒に老後生活を楽しむことになる。先進国では、当たり前なハッピーエンドだ。
  さて、日本の場合は……?
 法律上では何の問題もないのに、各市町村が勝手に根拠のない方針をつくりだし、人間の仲間である犬や猫を「贅沢品」と決めつけると同時に、生活保護や介護を受けられなくなる!と年寄りを脅かしてしまうケースが後を絶たない。
 チャッピーとルルを大切に飼っていたこのおばあちゃんも、行政の非人道的な決まりの犠牲になった。犬たちを手放すように役所の職員にしつこく責められたため、おばあちゃんは涙を流しながら所有権を放棄し、犬たちの殺処分に同意させられた。
  今回、たまたま介護を請け負っていた民間のヘルパーが思いやりのある人間であったお陰で、2匹の小型犬は処分されず、一緒に飼ってくれる里親にもらわれた。(マルコ・ブルーノ)
◎チャッピーとルルは、今、愛情に包まれ楽しく暮らしているが、おばあちゃんの心の涙を癒してくれる人はいない。

チャッピー(左)とルル