足立朝日

Vol.46-百物語 白石加代子

掲載:2006年11月5日号
 あの名優・白石加代子が、また1010の舞台を踏む。11月24日(金)午後7時限りの「百物語」特別編。現在79本のシリーズ中、極めつけの2本、三遊亭園朝「江島屋騒動」、筒井康隆「五郎八航空」を上演する。白石加代子100%全開度に、観客は震撼し、はたまた笑い転げるのは間違いない。
 「百物語」は、演出の鴨下信一、プロデューサーの笹部博司、そして白石の3人による狂想曲でもある。白石は「江島屋騒動」について語る。「この前稽古をしていて、あれ、どこかで見たことがあると思ったら、ずぶぬれの老婆が這い上がってくるところなんか、『リング』って映画の貞子と重なるところがあるんですね。死んだ娘の復讐に、毎夜、五寸釘を打ち付けるとか、偽物を売りつけて悲劇の原因を作った古着屋に怪奇現象が次々と起こっていくとか、古典的な怪談ではあるのですが、現代的でもあるように思えます。読んだ時と、実際に声にしてみた時とこれほど印象の違った作品はかつてなかった。
極上のエンターテインメント再び
黙読ではダメ。鴨下さんの言うとおりに発音すると、言葉が粒立って情感が生まれることがよ~く解った。この物語の中ではほんの短い時間の間に、登場人物の運命があっというまに変転して行くのだけれど、そのスピード感が出せるようになり、語ることの実感が湧き上がってきた」。今や白石の台本には、色とりどりの線が引かれ、血の滲むような努力の跡が伺える。
 「五郎八航空」は、「百物語」の中で、最も観客が笑った作品といえる。2人の男が嵐の中、赤ん坊をおぶったオバサンが操縦する飛行機に乗ってしまう。その「恐怖が笑える」作品には、滅多にお目にかかれない。笹部は言う。「ニューヨーク公演では、息の合った同時通訳に恵まれ、笑いの部分でドッと反応があり、こちらがビックリした。笑い過ぎて、文字通り椅子から転げ落ちる観客が続出した」
 プロデューサーが観客の前に姿を現すことはまずないが、作品名を言うと、誰でもが目を輝かせる。例えば「奇跡の人」。大竹しのぶを起用したのは、笹部である。例えば「身毒丸」。その舞台を武田真治で立ち上げ、藤原竜也が俳優になるきっかけを作ったのも、笹部である。笹部、鴨下、白石の感性が融合した極上のエンターテインメント、一夜限りの「百物語」が、間もなく始まる。
  S席4500円、A席4000円、千住席1010円、チケット℡5244・1011。