足立朝日

Vol.40-江戸みやげ 狐狸狐狸(こりこり)ばなし 水谷 八重子

掲載:2006年7月5日号
 新派の華、水谷八重子が再びシアター1010に登場する。今回の作品は、北條秀司の喜劇の最高作といわれる「江戸みやげ・狐狸狐狸ばなし(二幕)」。1010新派で演技力が注目された松村雄基、宮川浩が共演する。
 江戸吉原田圃に、上方流れの女形・伊之助(松村)が、手拭い職に就きながら、千住で女郎をしていた「おきわ」(水谷)と暮らす。家事一切を黙々とこなす伊之助を横目に、おきわは昼間から茶碗酒を浴びる始末。さらに裏手の閻魔堂住職の重善(宮川)と密通。千住の金持ちの娘おそめ(小川恵莉)が重善に惚れていることを知ると、おきわは重善に「女房にしろ」と迫る。「それなら伊之助を殺してこい」とうそぶく重善の言葉を真に受けて、おきわは伊之助を毒殺。ところが死んだはずの伊之助が、重善と一緒のおきわを迎えに来る。恐怖に、おきわは気がふれるが……。
 同作品を「はまり役にしたい」と意気込む水谷。「馴染みの地名が出るこの作品は、1010にピッタリ。前回があっさり系だったので、今回の全員がコテコテ系の芝居がとても楽しみ。とくに松村さんは、関西弁が大変。ナヨナヨしながらも女にベッタリの難しい役だと思います。私も、新しい境地開拓で挑みます。下駄履きで気軽にどうぞ」とPR。1010の観客とともにどのような舞台を創れるか、心待ちしている。
コテコテの舞台を観客と
 同作品の新派公演は、平成7年の京都南座が初めて。当時の相手役は、伊之助に中村勘九郎(現十八代目勘三郎)、重善に池畑慎之介。芝居中に地震が起こり、記憶に残る舞台だったと水谷は語る。同年に、水谷も襲名により「良重」から「八重子」となったが、今でも「良重さん」と声がけされることがあり、「覚えていてくれたのね」とうれしく思う。
 常に舞台で存在感を放つ水谷。「午後の遺言状」では、大地に根を張り、ドッシリと生きる田舎の女性役が光り輝いた。「京舞」では88歳から101歳までの井上流家元役をかくしゃくと演じ、100歳で「猩々(しょうじょう)」を舞う姿には、家元としての品格が満ち溢れ、新派女優の力量が発揮された。水谷のいう「命の表現」が、男女の深層をえぐり出すブラックコメディー「狐狸狐狸ばなし」にも期待される。上演7月25日(火)~30日(日)。S席7500円、A席5000円、千住席1010円。チケット℡5244・1011。