足立朝日

読む・詠む・発信する 足立区発の“本”あれこれ

掲載:2015年10月5日号
 しんみりと気分が落ち着く秋は、読書の季節。小説、エッセイ、辞典、出版社――本の扉を開けて、彩り豊かな言葉や街の魅力など、様々な新しい出会いを見つけに行こう。

●本と地元の魅力を発信!「センジュ出版」設立
 千住から魅力的な本を発信する出版社が誕生した。その名も「センジュ出版」。千住大川町在住の吉満明子さん(40)が株主、社長、編集と何役もこなす。その手腕と明るくバイタリティ溢れる人柄から、9月25日(金)に開かれた設立記念パーティーには、約130人がお祝いに駆けつけた。
 吉満さんは17年間出版社に勤め、数多くのヒット書籍を世に送り出してきた。仕事一辺倒だったが、出産を機に価値観がガラリと変化。「日常の生活を大事に働きたい、もっと子どもと居たい」と職場復帰を断り一念発起。自宅近くに古いアパートをリノベーションした事務所を借りて起業した。
 「センジュ出版」の社名には、街への愛情と夢がこめられてる。9年前に千住に移り住み、頑張っている個店の多さと街のおおらかな空気に魅了された。
 かつて地方の食材PRに携わった経験から、「まちづくりは住んでいる人じゃないと出来ない」と実感。「その時、気づいたんです。要素を構成、編集して発信するのは、本だけでなくまちでも同じ。いつか自分の住むまちを、編集者の視点で手伝いたいと思ってきました」
 センジュ出版では、大手出版社を通して流通する書籍などの企画・編集、作家のマネジメントに加え、イベントや講演の企画も手がける。そして最大の特徴は、商店街やまちの企業などの広告や販売促進など、地元の応援だ。飲食店のメニューの制作、千住酒合戦200の事務局など、すでに精力的な活動が始まっている。
 「まちの魅力を内外に発信していきたい。千住に関わるアピールの相談もお受けします」と吉満さん。みんなで集うことを大事に、と事務所の一室をブックカフェとして開放、レンタルスペースとしても活用する(11月オープン予定)。未来のまちを作っていく頼もしい仲間たちとの出会いが、待っている。
【センジュ出版】千住3‐16‐2F、TEL6337・3926、FAX6677・5649
◆「千住酒合戦200」でイベント「酒の本ビブリオ合戦」(10月17日)を主催。
●美しい表現が身につく 「俳句 短歌 ことばの花 表現辞典」千住東在住 西方草志さん編纂
 自分でも一句、と思っても、言葉が出てこない。そんな時に心強い辞典がある。「俳句 短歌 ことばの花 表現辞典」(2300円+税/三省堂)だ。
 「ことばの花」とは美しい表現のこと。名句名歌の4万もの表現例が集められている。この膨大な言葉を編んだのは、千住東在住の西方草志さん(69)。広告デザイナー、コピーライターを経て、現在はフリーで装丁やイラストなども手がけている。
 10年ほど前から連句を始め、09年に「第11回平成連句競詠会 連句文芸賞」の大賞を受賞。添田善雄さん(足立ほがらかネットワーク代表)を中心とする「千住連句会」の活動の中で言葉のネタ切れを実感し、「俳句をやっている人は、表現辞典があったら助かるのでは」と思い立った。
 言葉を拾い出す作業に魅力を感じ、これまでに共著を含めて5冊を編纂。最新の「ことばの花」で「秋」を引くと、「瓜の花秋を蕾みて」「秋に添うて行かば」など、使い方による言葉の彩りの変化や豊かさが詰まっている。
 「先生方も先人の句から学ぶ。いいと思う表現を使って作り、練習していくと上達が早くなる」と西方さん。句を詠む人だけでなく、誰でも日本語の美しさに出会える。
 他には、日常で役立つ「敬語のおの辞典」、「五七語辞典」、「雅語・歌語 五七語辞典」、江戸~昭和前期のユニークな表現「川柳五七語辞典」などがある。
●小林一郎著「金持ちは崖っぷちに住む」
 3年前に「『ガード下』の誕生―鉄道と都市の近代史」(祥伝社新書)を出した加平1丁目在住の小林一郎氏(62)が、得意の「現地調査」「街歩き」を実践して一つの「法則」を導き出し、出版したのが本書。
 書き出しは、明治の文豪・坪内逍遥の話。文京区猿楽町に下宿していた逍遥が、家庭教師をした金持ちの子の親に気に入られて、華族が住む同区本郷台地の一角、真砂町の崖っぷちの一軒屋を贈られた話、その屋敷を購入して出来た宿舎に正岡子規が寄宿して来たこと、同じ頃にその崖下の菊坂町に樋口一葉一家が引っ越して来たという話は、偶然とは言え、なかなかの3大話だ。
 崖っぷちの家に時をへだてて偶然住んでいた森鴎外と夏目漱石のこと、永井荷風と高見順の話など、本書は、崖の上に住んだ文豪と崖下から這い上がろうとした作家を対比させながら進む。文学好きの読者にはたまらない内容だろう。
 格差社会の進行の中で崖っぷち全盛となった戦前、総中流化の中でそれが減った戦後の違いを明らかにしつつ、近年格差社会が再び進み、崖っぷち住宅は、より高いオクションと呼ばれるタワーマンションの最上階へと姿を変えていっている、との筆者の指摘は鋭い。(祥伝社新書/800円+税)
●柊サナカ著「谷中 レトロカメラ店の謎日和」
 新田在住の作家・柊サナカ氏の3冊目。前2作のヒロイン・アクションミステリーとはがらりと変わって、ほんわかとやさしい雰囲気の連作ミステリー。
 舞台は谷中の写真機店。穏やかな時間が流れるクラシックカメラ専門のレトロな店で、アルバイトの来夏と店主・今宮は、訪れる客たちが持ち込む小さな謎を丁寧に解いていく。セピアのやさしい色調で紡がれる2人の大人の恋物語も、しっとりと心に沁みる。随所に登場する数々のクラシックカメラがなんとも魅力的で、興味のない人も読後は思わず手にしてみたくなるかもしれない。(宝島社文庫/600円+税)
●銭湯で健康&キレイになれる本「銭湯養生訓」
 昨年、銭湯で健康できれいな体を作る方法を紹介したところ、大反響。銭湯の効能を説く「銭湯養生訓」(草隆社刊/1400円+税)を、好評につき再度ご紹介。
 著者の食アスリート協会代表理事の神藤啓司さんによると、ポイントは「広い・深い・熱い」こと。週2回、42℃の深いお湯に肩までつかることで、痛んだ細胞を修復するたんぱく質・ヒートショックプロテイン(HSP)が活性化して、免疫力が上がる。銭湯ならではの水圧と浮力も、血流や心肺機能向上に効果的なので、基礎代謝アップで美容にもいいそうだ。
●Dr.周東著「糖尿病は治る」
 好評につき再度ご紹介。そもそも生活習慣病とは何か? なぜそれが糖尿病と結びつくのか? その予防と改善方法は? 等々、読者が知りたい情報が満載。著者は日常医療や研究、学会発表に加えて、テレビ・ラジオ出演、作詞・作曲、著書出版など幅広く活躍中の周東寛医師(医療法人健身会理事長)。「あっ!と驚く生活習慣病の予防と改善」を副題に、長男・佑樹医師の「生活習慣病」に関する講演を基に加筆。「生活習慣病とは」「生活環境病」「高血圧症の予防・改善」「脂質異常症の予防・改善」「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」「糖尿病の予防・改善」「糖尿病体質からの予防・改善」について、実に詳しく解り易くまとめられている。

写真上/設立パーティーで挨拶する吉満さん=レストラン タピ・ルージュ(千住芸術センター20階)で
順に人物/西方さん、小林さん、柊さん