足立朝日

役者が自ら持参 希少な足立の宝 「初顔見世の役者絵展」 10月29日㈫~12月8日㈰ 郷土博物館

掲載:2019年10月5日号
 江戸時代の足立は、人々が文化・芸術を身近に親しむ風土だった。それを示す数々の希少な浮世絵が名倉家(千住5丁目)から見つかり、10月末から郷土博物館で初公開される。

 足立区は区制80周年事業として、平成24(2012)年度から、主に区内の個人宅を対象に、大規模な文化遺産調査を行ってきた。
 その結果、30件の調査で2800点以上の資料が発見された。そこからわかったのは、当時の足立が多くの文人たちを住まわせ、地元の人たちが自然に文化芸術を楽しみ交流する風土にあったこと。豊かな経済力と文化的に成熟したことがうかがえる。
 資料は平成24年度の「足立の大仏展」を皮切りに、これまでに8回の展覧会で公開。名倉家の資料からの展示は、昨年度の「大千住 美の系譜展」に続き2度目となる。
 名倉家は江戸時代から骨接ぎの名医「千住の名倉」として知られており、200点以上の資料が発見された。中には俳諧(連歌のように複数人で句のやりとりをする形式)の短冊も多数あり、江戸時代~昭和まで俳諧の場所として使われていた。
●歌舞伎役者が自分の浮世絵を持参
 今回公開されるのは、名倉家より区に寄贈された浮世絵、約100点の中から厳選された「役者絵」70点。
 この所蔵品の特徴は何と言っても、購入したものでなく、交流の中で自然と集まっていったものであること。名医のもとを患者として訪れた九代目市川団十郎をはじめとする歌舞伎役者当人が、書画や俳諧を楽しむ同じ仲間として、自らが描かれた浮世絵を持参するなどして築かれたコレクション。これまでに、数例しかない非常に珍しいケースだそうだ。
 特に役者と名倉家の親交の深さを示しているのが、「摺物」という浮世絵。歌舞伎役者が贔屓の客などに配るために限定制作した特注品で、高価な材料や高度な技術が用いられている。一般に出回っていない希少なもので、しかも退色などがない、幕末明治の浮世絵として最高レベルの保存状態という。
 他にも、役者が亡くなった時に知らせるために作られる「死絵」なども展示される。
 世界にも誇れる足立の浮世絵を、この機会に観てはみてはいかが。
《文化遺産調査浮世絵展「初顔見世の役者絵」》
【日時】10月29日(火)~12月8日(日)午前9時~午後5時(入館は4時半まで)、月曜休館(祝日の場合は翌火曜)
【場所】足立区立郷土博物館(大谷田5‐20‐1/JR亀有駅北口より東武バス「八潮駅南口」行「足立郷土博物館」下車徒歩1分、または東武バス「六ツ木都住」行「東渕江庭園」下車徒歩4分、千代田線・綾瀬駅西口より東武バス「六ツ木都住」行「東渕江庭園」下車徒歩4分)
【料金】一般(高校生以上)200円、団体100円、中学生以下・70歳以上・障害者手帳所持者と介護者1名は無料 ※第2・3土曜は無料
【問合せ】TEL3620・9393郷土博物館

写真上/九代目市川団十郎自身が描いた摺物「歌舞伎十八番道具尽」 明治7年(1874) 木版多色摺
下/三代歌川豊国 「東海道五拾三次之内 赤坂 六代目松本幸四郎の沢井又五郎」嘉永5(1852)年 大判錦絵