足立朝日

この本

掲載:2021年9月5日号
★「護られなかった者たちへ」中山七里著/宝島社/858円(税込)
 著者は、「さよならドビッシー」で第8回「このミステリーがすごい!」大賞の「大賞」を受賞し、2010年にデビュー。以来、社会的なテーマで多くの作品を上梓し、読者の心を揺さぶり続けている。
 今回、「東日本大震災」「生活保護」をテーマにした壮大なミステリーが誕生した。8月4日に第1刷発行後、早くも24日には2刷を迎えたヒット作だ。
 仙台市の青葉区役所職員が失踪し、拘束されたまま餓死状態で発見される。刑事の苫藤は怨恨の線で捜査を開始するが、被害者は聖人のような人物で、容疑者は一向に浮かばず、捜査は難航。その中で、失踪した議員が2体目の餓死死体として発見される。同被害者もまた善人として崇められていた。容疑者として、事件の数日前に出所した模範囚の利根が捜査線上に浮かぶが――。
 利根が胸に秘める貧しくも幸せな想い出……老女・けい、けいを慕う子ども・カンちゃんとの暮らしが切ない。東日本大震災で妻と子どもを亡くし、絶望の中で捜査に没頭する苫藤の姿も痛々しく悲しい。
 物語の進行と共に、被災地の現状や、生活保護の不正受給者の実態、本当に護られなければならない生活困窮者の状況、申請を通すことの難しさなど、数々の問題点が明確になり、胸が痛む。
 同書は映画化され、10月1日(金)に公開。苫藤を阿部寛、利根を佐藤健が演じる。原作がどのように描かれるか、楽しみが2倍だ。