足立朝日

この本

掲載:2021年11月5日号
★「縄文の森へようこそ」榛谷泰明/中西出版/1,320円(税込)
 ここ数年、空前の土偶・埴輪ブームが続いている。それに付随して、縄文時代や古墳時代の先人たちの生活や精神性の高さに想いを馳せる人々も増加しているようだ。
 脚本家・演出家・監督・紀行作家など数々の肩書で精力的に活動を続けてきた榛谷氏は、生前「昔話」の取材で国内外を巡った。その土地の方言で語り継がれてきた話を聞き取るうちに、人間と動植物が共生する「精霊の躍動する世界」を学び、ただ歩くことで、自身の身体と感覚が先祖返りをして、自然との一体感を感じるようになった。
 縄文時代の先人たちは、まさにそのような精神性を有しながら、森や動植物と共生し、1万年以上の足跡を残した。
 青森県の三内丸山遺跡には、大集落の他に長さ420m、幅15mの通路があり、その両側に大人用の墓が並んでいる。巨大な盛り土の下には石器・土器・土偶や、ヒスイ・琥珀の宝飾品が葬られ、整地された盛り土の上で祭祀が行われていたと考えられている。食料は、その日に必要な木の実・水産物の採集や狩猟など。同遺跡が、そのような先人たちの不要な富を必要としない心豊かな生活を世に知らしめた。
 同書を上梓した5年後、榛谷氏は先人たちに深い想いを残したまま永眠。朝日新聞では、12月5日(日)まで両国の江戸東京博物館にて特別展「縄文2021―東京に生きた縄文人―」を開催。
 同書読後に、縄文人の「生」の暮らしに触れてみてはいかがだろうか。