
これを企画した東京芸術センターの代表で、大の映画ファンであり、黒澤ファンでもある綜合商事(本社・新宿区西新宿)社長の村井敬氏(65)は「私は、文学がベースにあって、現代批判をするという映画が好きだが、黒澤作品にはすべてそれがある。感性に優れ、同時に論理の構成がすごい。生誕100年という記念すべき年に、〝私がやらずして誰がやる〟という心意気で企画した。黒澤映画の真髄を大勢の人に見てほしい」と語る。
学生時代には、年間85本位映画を見ていた、という同氏は、「どれ位火薬を使ったか」を競う昨今のハリウッド系映画を嫌い、「ストーリー性の中で、人間がうごめき、その勇気や狂気を描く」作品にのみその意義を認め、「総合芸術としての映画」の価値が輝く、とする。黒澤明は、聖書から始まり、歴史書、文学書を乱読し「ドストエフスキー」に傾倒したとする同氏は、「黒澤は、正気と狂気が同居する心理劇の極致をものにし、人々にイマジネーションの大切さを訴え続けた。物事を深く見ようとしない現代人への警告だ」と言う。
同氏と黒澤明監督との直接的な接点はないが、その後「黒澤映画を真に理解する一人」として、長男の黒沢久雄氏と何回か対談している。「彼とは同じ昭和20年生まれでね、同じ映画が好き、ということがわかって共感しましたね」。
ちなみに、一番印象に残る黒澤作品について聞くと、時間を置いて「羅生門かな」と村井社長。この「間」こそが、すべての黒澤作品に意義を見出す同氏の「正直な答え」であった。
写真=村井敬社長=新宿の綜合商亊本社ビルで