足立朝日

千住旭町「アサヒ書店」 多くの人たちに惜しまれつつ閉店

掲載:2010年12月5日号
 足立区の街からまた一つ、書店の灯が消えた。
 千住旭町の学園通り商店街で42年間、地域の人に愛されてきたアサヒ書店が先月、惜しまれつつ閉店した。
 店主の齋藤廣太さん(55)をはじめ、妻の祐子さん、昼間のレジ担当の女性の、笑顔と気さくな会話が、ふらりと立ち寄る客を常にあたたかく迎えてきた。
 種類数では大型店には適わないが、書籍の品揃えは実に豊かで幅広い。「視点が変わっている本が楽しくて好き。新しい作家や本に出会うのがすごくうれしくて、学生時代から手当たり次第読んでいた」という齋藤さんのこだわりの一棚は、出版社にも「なぜそんなに売れるのか」と驚かれた。
 経費削減もあるが、中を見て買って欲しいと、漫画の単行本はビニール包装をせず、欲しい本はすぐに取り寄せる。常連客の好みを覚えていて、購読誌の取り置きなど心のこもったサービスがあった。
 「変な話ですけど」が口癖の知識の豊富な齋藤さんの人柄に、雑談に花を咲かせる客も多く、3世代が通う、まさに生きた街の本屋だった。
 だが、容赦ない不況と進む活字離れに、今年の猛暑が追い討ちをかけた。出歩く人が激減した打撃は大きく、閉店を決めた。齊藤さんは時代の流れと諦めるが、「今は活字に不慣れな子が多く、好奇心が広がらない」と、本離れを憂う。そんな中、子どもにちゃんとした本を買い与え続けるお客さんがいたことは、書店主の喜びだった。「きれいな日本語を使うんですよ。その子にさっき、おじさん、ありがとうと言われて、泣きそうになった」と目元をくしゃくしゃにして笑う。
 最終日の11月27日、閉店時刻の夜9時を過ぎても、客は途切れなかった。最後の一人になると、一人、二人と、閉店を引き延ばそうとするかのように次々に来店。高校時代から交際中の奥さんと通っていたという39歳の男性は、昼間花束を持参した。
 別れを惜しむようにじっくりと棚を見る客たちの手には、最後の数冊。「今までありがとうございました」。互いに笑顔で深々と頭を下げ、同じ言葉を贈った。
 「閉店を淋しいね、って言っていただける仕事ができたのがうれしい。兄貴とみたいに、可愛がってもらった商店街の人たちにも感謝。みなさんに感謝の言葉だけです」
 2階建てのビルは、2年後の電大開設を視野に、学問系の店に貸したいと考えているそうだ。

齋藤廣太店主と妻の祐子さん=最終日、閉店時間を迎えたアサヒ書店で