足立朝日

教育を変えたい! 足立区出身の大学生 バングラデシュで起業

掲載:2011年5月5日号
 足立区出身の大学生がバングラデシュで起業し、現地の史上最年少の外国人社長として奮闘している。税所篤快(さいしょあつよし)さん(22)だ。自身のこれまでを描いた本を4月に発行。若者たちに「海外に、外の世界に出てみようよ!」と熱いメッセージを送っている。

 そのエネルギーと行動力はどこから湧いてくるのだろうか。税所さんの自著『前へ!前へ!前へ!』(㈱木楽舎刊/税込み1365円)の中には、何度壁にぶち当たっても前へ進もうとする、タフな姿がある。今の若者には足りないと言われがちな、熱意、粘り強さ、根性、それらのパワーが溢れかえっている。
 失恋から立ち直ろうと読み漁った本との出会いをきっかけに渡航し、昨年6月に〝バングラデシュ版ドラゴン桜〟である「e-Education」プロジェクトを立ち上げ成功させるまでの、劇的な体験が描かれている。
 事業は富裕層と貧しい農村部の大きな教育格差を解消すべく、塾の一流講師の授業映像を使って学ぶという、同国では初の試み。そのアイデアと熱意は実を結び、大学進学は不可能とされていた貧しい農村の受講生4人が、最高峰のダッカ大学など難関の大学に合格する「奇跡」を起こした。
 昨年12月には若者の夢を支援する「みんなの夢アワード2010」(NPOみんなの夢をかなえる会/渡邉美樹理事長)で、「みんなの夢アワード大賞」「ワタミ特別賞」をW受賞。ワタミ㈱と同社会長の渡邉美樹氏の支援を受け、「DDGソーシャルビジネス」を設立し、同国最年少の社長に。現在、不安定な電力供給など多くの障害が立ちはだかる中、教室を5カ所以上に拡大するため奮闘中だ。
落ちこぼれから世界へ
 税所さんの生まれは竹の塚2丁目。保木間小から進んだ六月中では、生徒会長として空き缶を集めてカンボジアに井戸を贈るキャンペーンを展開、実現させた。
 だが、両国高校では落ちこぼれた。偏差値28。赤点で生徒会長を務めたというのだから、大物には違いない。塾で受けた映像教育で復活し、現役で早稲田大学に合格。その時の経験が、異国の地での奇跡へと繋がった。
 予備校事業と同時に、税所さんは日本の学生たちを、バングラデシュで修行させるプロジェクトも行っている。日本とかけ離れた熱気と人の溢れる貧困国から、受ける刺激は大きい。「この国の土を踏むことで、外の世界に積極的になる」という。
 税所さん自身、日本に帰ると快適さを感じるが、「ずっといると慣れてきて、ダレる。世界に出て行きたくなる」。両親への感謝や便利さへの有難みも、海外にいてこそ実感するという。日本の計画停電のニュースを聞いて、「計画的に停電できるのがすごいと思った」。日本で当たり前のことが当たり前でない環境が、冷静に母国や自分と向き合う力になる。
いずれは足立区に
 バングラデシュに渡る前、仲間たちと「足立区の教育格差をぶち壊す」を目標に、区内で起業を目指したことがあった。商店街の空き店舗で無料塾を開くというユニークなアイデアだったが、大人たちの風当たりは強く、実現には至らなかった。
 だが、心には常に故郷・足立区がある。現地人のパートナーと活動を共にする中で、自国民ならではの切実さと熱さを肌で感じた。「自分の国の問題を語るんじゃなきゃ、どうしても迫力が出ない」。だからこそ、「今は世界だけど、もっともっと経験を積んで、足立区に帰ってくる」と断言する。「35歳までにアジアを制する!」。迷いの無い目は、気概に満ちている。
 帰国後は足立区長になって、修学旅行先を途上国にするという野望もあるそうだ。

写真上/税所さん。今月初旬にバングラデシュに戻り、6月に一時帰国する予定=北千住駅東口「サンローゼ」で
中/小学校の教室で子どもたちと=バングラデシュのハムチャー村で
下/本の表紙