足立朝日

足立っ子力士・富士東(玉ノ井部屋)名古屋場所で新入幕

掲載:2011年7月5日号
 足立区で生まれ育ち、玉ノ井部屋(栃東親方/西新井4-1-1)に所属する足立っ子力士、富士東(24/本名=渋谷和由)が、6月27日(月)に発表された名古屋場所の番付で、晴れて新入幕を果たした。

驚きと喜び
 十両に昇進して挑んだ今年の一月場所、5月の技量審査場所と連続で勝ち越し。十両昇進後わずか2場所での入幕という異例の速さに、「まさか、上がれるとは思わなかった」と本人も驚く。
 父親の正和さん(53/関原二丁目在住)は「大関・魁皇と同じ東方で、一緒に土俵入りができることが、涙が出そうになるくらい感激。勝ち越して頑張って欲しい」とコメント。日本人力士最上位の魁皇が、初土俵を踏んだのは富士東が生まれた翌年の1988年。正和さんの喜びもひとしおだ。

わんぱく相撲の「渋谷くん」
 わんぱく相撲時代、全国2位の成績を収めるなど、「渋谷くん」は足立区の星として期待を集めた。稽古に通っていた玉ノ井部屋に中学卒業後に入門し、03年春場所で初土俵。7年8カ月かけて十両に昇進、今や部屋の最上位力士にまで成長した。

困難がチャンスに
 「今年は年男。納得の行く相撲が取れている」と笑顔は明るい。だが取り巻く環境には様々あった。
 八百長問題で三月場所が中止になり、モチベーションを保てず体重の落ちた力士もいた。「中止当初は気持ち的にイヤになっていたけど、気を抜かずにいつも通り稽古もしていた。それが成績につながったと思う」
 区内にある境川部屋(境川親方/舎人4-3-16)にも、頻繁に出稽古に通った。今名古屋場所で小結に昇進した豪栄道、前頭十二枚目の豊響など格上の関取相手の稽古が、大きな力となった。同部屋の佐田の海(24/熊本出身)は入門も同期で、良きライバルという。
 異例の昇進に、八百長問題で多くの十両力士が引退したことが影響したのも確かだ。「運がいいですね、十両昇進の時も。このチャンスをものにしないと。自分たちは何もしていないので、思いきり自信をもってやるだけ」と揺るがない。
 一月場所の千秋楽で、同じ7勝7敗の相手から勝ち越しをもぎ取ったのも、「必死ですからね。(八百長なんて)ありえないです」。目の輝きは、自らの力で勝った者だけが味わえる充実感に満ちている。
 東日本大震災では、部屋を挙げて炊き出しに行った。先代の栃東親方が南相馬市出身で、毎年夏の合宿地だった場所は、津波に呑まれて跡形もなかった。「ぐちゃぐちゃですごかった。なのに逆に、頑張れ、と励まされた」。第2の故郷のあたたかい応援も、新たな挑戦への力となっている。

七月場所は勉強
 七月の名古屋場所の抱負を聞くと、「みんな格上なので、勝っても負けても自分の相撲を取ること。勉強の場所」ときっぱり。「もっともっと上にも行きたいけど、とりあえず勝ち越さないと。思いっきりやります」
 愛嬌のある人懐こい笑顔に、今はどっしりとした力強さが加わった。
 名古屋場所は7月10日(日)から。みんなで富士東を応援しよう。
【富士東和佳】1987年4月19日生まれ。身長180㎝、体重176㎏。亀田小学校、第九中学校出身。

写真/喜びの笑顔でガッツポーズ=玉ノ井部屋で