足立朝日

パステル画家・講師 錦織 弘さん(77) 梅田在住

掲載:2013年3月5日号
パステルは素朴で無邪気

 描かれた花の、みずみずしさと透明感に心が和む。パステル(チョークに似た画材)画というと、まったりとした質感のイメージがあるが、繊細なタペストリーのようだ。
 「油絵、パステル、水彩であっても、その人の持っている感性なんですよ。教えてもらうものではない。私の持っている色彩感覚。油絵を描いても透明感のあるものを描くと思う」
 99年第11回現代パステル協会賞を受賞。現在はEB・ART(陶版画)会顧問、現代パステル協会会員。カルチャーセンターなどでパステルや水彩を指導、中央本町住区センターのパステル画サークル「虹の会」は、昨年20年を迎えた。
 法政大学文学部在学中に、テキスタイルデザイナーの大西憲治郎氏に師事。独立後は、大学でテキスタイル(インテリアなどの布地、図案)を指導した。高校時代から花を描くのが好きで、上京後は新宿御苑で「狂ったように写生やスケッチをした」ほど。
 洋画に憧れながらも文学部に進んだのは、「昔は絵を描くなんて、不良扱いだった」。戦後という時代でもあった。「その頃は、まさか絵の仕事につくとは思いもしなかった」
 フランスの画家ルドンやドガのパステル画を見て衝撃を受け、水彩からパステルの道へ。「油絵は西洋人など肉食の人。水彩は草食の日本人。パステルはその中間。水彩じゃ少し物足りないけど、油絵じゃこってりしている。自分にピッタリだった」。溶剤や油の匂いに悩まされることもなくなり、何よりも、パステル独特のやさしいタッチに魅了された。
 一般の人にも広めたいと、04年に『素敵な花のパステル画』(日貿出版社刊/税込2310円)『素敵な花の水彩画』(同刊)を共に出版した。
 筆を使わず、もともとある色を紙に直接乗せていくパステルは、誰でも歳を取ってからでも、気軽に始められるという。「素朴。ロウセキの延長で、どろんこ遊びにも通じる。筆だと手元が狂うことがあるが、その心配がない。じかに描くことがボケ防止にもいいと思う」。自身も歳を重ね、パステルの持つ可能性を実感している。
 穏やかに微笑む目に、無邪気な色がある。やさしい光に満ちた絵は、人柄そのものなのだろう。