足立朝日

●豆本来の甘みを引き出す-加藤商店-

掲載:2006年1月20日号
 節分といえば豆。千住に古くからある煎り豆のお店、加藤商店を訪ねてみた。
 昭和5年創業の店内には古めかしい木枠のガラスケースが並び、何種類もの煎り豆が売られている。ケースは桜の木製で、今では珍しい釘を1本も使っていない指物。何とも言えない風情がある。
 店の奥にガラス戸1枚を隔てて工場がある。朝7時から昼まで裸電球の明かりの下、年代物の豆煎りの機械が3台、パチパチと豆のはぜる音を響かせている。豆が入っている鉄製の箱は下が網目になっていて、下からのガス火の熱が均等に伝わるように、常に前後に大きく揺れる仕組みになっている。冬は暖かくていいが、夏はかなりきつい。「昔は箱を梁から吊って手で動かしていた。石炭だったから火の側から離れられなくて大変だった」と、ご主人の加藤彰久(73歳)さん。昔ながらのこの機械を使って製造している店は、都内に10軒ほどしかないという。豆を炒るほのかに甘い香ばしい香りが周辺に漂い、近くの国道4号を歩いていたテレビ番組のディレクターが匂いに惹かれ、出演依頼をしてきたこともあるとか。
 豆まきに使うのは炒った大豆だが、何も味をつけていなくても甘みがあっておいしい。原料は甘みが強く味に締まりのある国産を使う。炒った豆は5人がかりで選別し、欠けたり焦げたりしたものを一つ一つ取り除く。肩の凝る大変な作業だが、「粉から出来る菓子は、原料や添加物でも味が違う。豆は最初から形が変わらない。手をかければかけるほどおいしくなる。能率が悪くても食べる人のために」と続けている。落花生も手でむくので、余分な脂肪分が出てしまう機械剥きに比べ、味がまろやかでコクがある。豆本来のおいしさを大事にする、加藤さんのこだわりだ。
 健康や美容への効果も注目されている大豆。「硬いものを噛むと胃液が出るし頭も歯並びも良くなる」と、炒り豆の効能を笑顔で語る加藤さん自身、年齢よりも若々しい。今年は歳の数以上の豆を食べ過ぎないように注意が必要かも?
加藤商店 千住中居町19―8℡3881・2934


店主の加藤彰久さん。
何種類もの煎り豆が並ぶ