足立朝日

障害者用自転車手作り26年

掲載:2006年2月20日号


 市民社会に感動を与えた無名の良き市民を顕彰する「シチズン・オブ・ザ ・イヤー」(シチズン時計主催)。05年の3組の受賞者の一人に、足立区扇 二丁目の堀田健一さん(62歳・堀田製作所)が選ばれた。堀田さんは、障害者用自転車を1台1台手づくりで26年間、作り続けてきた。
 受賞の電話を受けた時、最初は騙されていると思ったという。「そのうち、手数料を振り込め、と言ってくるに違いないと思っていた」と堀田さん。長年のひたむきな努力に対する突然の「ご褒美」に喜ぶと同時に「これから役に立たせてもらえるんだな、と思った」と、実直な笑顔で語る。



↑=手作りの三輪自転車と
堀田さん夫妻
←=持ち運びに便利な
かわいいミニ自転車






希望者増え本業に
 堀田さんのもともとの本業は、自転車製造ではない。工業高校を卒業、大手自動車メーカーでオートバイ製造を経て、梱包業に転身。小さい頃から物作りが好きで、機械作りは趣味だった。三輪自転車を作るきっかけは、校則で二輪自転車が禁止されていた小学生の息子さんのため。たまたまそれを見かけた足の不自由な老婦人が、「あれなら自分でも乗れる。売っている店を教えて」と尋ねてきた。まさか障害者の役に立つとは思っていなかったが、一肌脱ぐことに。その後も希望者が訪れるたびに本業の傍ら、1台1台手作業で作る日々が続いた。作業場は駐車場、プレス機械もないため部品は手で削った。新聞で紹介され全国から注文が来るようになったが、到底生産が追いつかない。メーカーに話を持ちかけても相手にされず、「それなら自分でやろう」とついには梱包業をやめて本業にしてしまった。

誰でも乗れる
 堀田さんの作る自転車「ラクラックーン」は、ほとんどが同じものは世に2つとない。お客さん一人一人の障害の状態や体型、注文に合わせて、部品から装備まで全て一人で作り上げる。基本となっているのが、踏み込み式ペダルの三輪自転車。ペダルを回転させて動かすのではなく、軽く足で踏むことによって車輪が動く仕組みになっている。片足でも走行可能で、障害や高齢などで歩行困難な人でも楽に走らせることができる。希望に応じて、電動式、モーター付きのものなども作ってきた。サリドマイドの障害者が脚だけで操作できるものや、脳性マヒの人が乗る三輪自転車、健常者にも便利な持ち運び用ミニサイズなど、まさに夢の乗り物だ。「どんな方でも体に動かすところがあれば作れる」と堀田さんは言う。昨年手がけた小錦のトレーニングマシーンは、300㎏に耐えるビッグサイズ。巨体を揺らして作業所を訪れた小錦は、大喜びだったそうだ。これまで利用客は1000人、製作数は実に1600台にもなる。

困難を二人三脚で
 全てオーダーメイドのため、製作は月に3~4台。利用者の体や注文に合わせて何度も細かい調整をし、どこへでも配達に行く。修理や使いやすい環境を整えることも、堀田さんにとっては自転車作りの仕事の一部。昼はお客さんのケアに奔走し、夜は徹夜で作業、そのまま配達に出ることもあった。当初1台の値段は7万円。現在は15~26万円だが、それでも儲かるわけではない。生活が苦しく、子どもの給食費が払えないこともあったという。それを支えたのが奥さんの和子さんだ。事務や部品調達、作業の手伝いなどをこなし、家計をやりくりした。「大量生産の値段と比べられて辛かった」と和子さん。堀田さんも「本気になってやめようかと何度も思ったけど、そういう時にお客さんが来る。やめられなかった」と笑う。「一人ではとてもできなかったですね」。大手メーカーからの商品名のクレーム、障害者に対する法の不整備など、数々の困難を二人三脚で乗り切ってきた。
 何よりも続ける原動力となったのは、利用者たちの熱意だろう。北海道から買いに訪れた小学生を羽田に迎えに行った堀田さんは、不自由な足でゆっくりと歩いてくる姿を見て涙が止まらなかったという。「俺はどんなことをしても作ってやるぞ、と腹が決まった」。自分の自転車を頼りにしてくれる人たちの喜ぶ姿。「そういううれしいことがいっぱいあった。歩けない人がスイスイ乗れちゃうんだから。社会に出て、車椅子で生きるか、自転車に乗れるかの違いは大きい」。

利用者の願い前進
 利用者の支援会「ラックンの会」も結成され、自治体への働きかけで都内4区、首都圏6市で障害者用自転車購入助成金制度がスタート。足立区も4分の1と少ないが、助成が受けられる。
ここへきて念願の自転車メーカーとの協力に、ようやくこぎつけた。部品製作の一部を任せることで低コストに抑え、軽度障害者や健常者向けの量産タイプの製作が可能となる。
 これを機に必要としている人に少しでも行き渡れば、と夫妻は願う。「私たち人生賭けちゃったからね。これで何も残らなかったら寂しいしね」。苦労を感じさせないあたたかい笑顔に、堀田さんの真心が溢れる。
【問い合わせ】℡3890-8666 扇2-9-20