足立朝日

青木 尚佳 さん(22) 千住旭町出身 「ロン・ティボー・クレスパン国際音楽コンクール」バイオリン部門2位

掲載:2015年2月5日号
テクニックではなく自分の音楽を

 昨年11月、若手演奏家の登竜門と言われるパリのロン・ティボー・コンクールで、バイオリン部門2位。コンチェルトでは、モナコ大公の特別賞を受賞した。「ようやく、やってきたことが報われた」と話す落ち着いた笑顔に、山を一つ乗り越えて得たものが覗く。
 17歳で日本音楽コンクール・バイオリン部門1位を獲得。高校卒業後、ロンドンの王立音楽大学に留学して4年目になる。なかなか結果が出ず、DVD審査の段階で落ちたことも何度かあった。
 しかも、今回のコンクールは、5日間で13曲のタイトなスケジュール。さらに、2週間前の中国国際バイオリンコンクール(2位受賞)から帰国直後に、風邪でダウンし、一時は棄権も考えたほどだった。「体力勝負でしたね。頑張ってよかった」
 2歳の時、母と幼児教室でバイオリンを習い始めたのだが、実は何も覚えていないという。「ビブラートも自分は気づいたらやっていたので、人に教えるのが大変」。バイオリンは一心同体で切り離せない存在なのだろう。
 渡英直後は人との付き合い方が日本とは違い、戸惑ったが、今は逆。「気持ちの変化もありましたし。向こうでは誰が何をしていても気にしないし、みんなライバルのことはよく知らない。演奏する上では楽」
 クラシック音楽は日本ではかしこまって聴くイメージだが、長い歴史を持ち生活に溶け込んでいる欧州では、豊かに楽しむもの。留学して掴んだのは、音楽の本質だ。
 「テクニックは日本人がすごいけど、音楽性は向こうの方がすごい。どんなにヘタでも、その子の音楽がある。すごく楽しそうに弾く」。最初は指導者から演奏が地味だとよく言われた。「パフォーマンスでなく、心から湧き出るものが必要。間違えちゃいけないとかに、とらわれずに。少しは自分がしたい表現を音にするコツをつかんできたけど、まだ足りない」
 11歳から使っている愛器には、小学校時代、指導の厳しさにこぼした涙の跡が今も残る。使い続けるうちに音が変わり、熟成するように味わいを増していくバイオリンとともに、弾き手もある。
「ピークが1度や2度でなく、息の長い演奏家になりたい。夢は海外のオーケストラと出来たら一番いいけど。まずは与えられたことをしっかりやって」。力強く澄んだ目に、内なる音楽が響いていた。
●3月30日(月)青木尚佳さん出演  チャリティーコンサート
 青木尚佳さんが小4~高1まで在籍していた団体のコンサート。
◆東京ジュニアオーケストラソサエティ〈東日本大震災チャリティーコンサート―春の演奏会―〉
【日時】3月30日(月)午後7時開演(6時半開場)
【場所】国立オリンピック記念青少年総合センター・大ホール(小田急線「参宮橋駅」徒歩7分)
【曲目】ベートーヴェン=「レオノーレ」序曲第3番、ブルッフ=ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調、シューマン=交響曲第2番ハ長調
【出演】指揮=桑田歩、ヴァイオリン独奏=青木尚佳
【料金】一般2000円、学生1000円
【問合せ・チケット販売】NPO法人東京ジュニアオーケストラソサエティ事務局TEL5790・9759、FAX020・4666・7780、Eメール