足立朝日

人生のヒントを伝授 作家・林望氏

掲載:2006年7月5日号
◆◇人生のヒントを伝授 作家・林望氏が記念講演
 作家で書誌学者の林望氏の講演が6月18日、産業芸術プラザ・天空劇場で行なわれた。「足立区団塊世代の地域回帰推進事業」の一環だが、該当世代以外も聴講できる記念講演として企画された。
 林氏はケンブリッジ大学客員教授、東京芸大助教授を歴任。在英中の経験やイギリスと日本の生活文化の違いなどを綴ったエッセイ『イギリスはおいしい』がベストセラーとなり、「リンボウ先生」の愛称で広く知られる。最近の著作に『帰宅の時代』がある。                   講演する林望氏
 林氏は日英の友人たちの豊富なエピソードなどを交えつつ、既成概念に捕らわれない柔軟な視点から、組織偏重の日本社会の弊害を痛烈に指摘する。欧米の先進国にはない転勤制度や就業時間後の付き合いなど、日本には公私の区別がない。その結果「私」の無い生活の中で個としての生き方が定まらないことが、定年後の不幸の原因と諭す。
 そこで林氏が提唱するのが、お金のためでなく、人に感動を与えることで得られる充足感を意味する「エンライトメント」と、社会貢献などの奉仕活動を意味する「フィランソロフィー」の考え方。それらは心の中を磨き、いつまでも若々しくいられる秘訣でもあるという。「利己的では幸せになれない。人のために、人に認められてこそ。まずは一番身近な他者である家族のために一度家に帰ること」と家庭と向き合うことを薦める。
 林氏は執筆の傍らバリトン歌手として音楽活動をしているが、身に付くまで10年費やしたと告白。社会貢献のための技能の習得には、努力と時間が必要だ。「今からでも遅くない。でも今からやらないと間に合わない。何を始めたいかわからない人は高校時代を思い出して。若い時にやりたかったことは一生の夢」。魅力的なバリトンで語られる力強いエールは、豊かな人生に向けて聴衆の背中を押したに違いない。