足立朝日

足立区で育まれた芸術と知性 民家から多数の文化遺産 3月に郷土博物館で展覧会

掲載:2016年1月5日号
 江戸時代に活躍した琳派の画家・酒井抱一や文人画家・谷文晁。彼らが残した絵画などの数々の貴重な資料が、区内で見つかった。長い時を超えて、代々その家で大切に守られ伝えられてきたそれらは、芸術的な価値に加えて当時の文化の発展を知ることのできる、まさに足立区の宝でもある。

 足立区の文化遺産調査について、昨年12月7日(月)、区役所で記者会見が開かれ詳細が発表された。
 数々の文化遺産の「発見」があったのは、区内の民家や商店など。2013年に郷土博物館で開かれた「大千住展」をきっかけに情報が寄せられ、郷土博物館が武蔵野美術大学の玉蟲敏子教授、鶴岡明美同大学非常勤講師らとともに調査を行ってきた。
 その結果、抱一や文晁と門弟たちの作品が、千住だけでなく西部の江北、花畑、中川、中央本町で100点以上も確認された。琳派がこれだけまとまって見つかるのは、他には例がないという。
 資料そのものの価値だけではなく、出てきた地域にも大きな意味がある。宿場町だった千住は、文人墨客などが集う文化的に優れた地域であることは、これまでも知られてきた。俳人・松尾芭蕉が奥の細道へと旅立ち、昨年11月に200年記念再現イベントが行われた「酒合戦」は、谷文晁ら高名な絵師や文人と地元の富裕層の交流を示している。
 その文化的活動が千住に留まらず、足立区の広い範囲で活発だったということが判明。これまで学会で知られていなかった江戸東郊の文化史と広がりがわかる、貴重な調査となった。
 中でも江北の舩津家は、1840年頃(天保期)に活躍した谷文晁一門の絵師・舩津文渕から伝わる大量の資料を提供。江北五色桜の里桜研究家・故舩津金松氏宅でもあり、桜の写生本「江北櫻譜」も伝わっている。
 酒井抱一が尾形光琳の百回忌にまとめた図録「光琳百図」、谷文晁が17世紀のオランダの医学者・動物学者ヨンストン「動物図譜」を写した「西蛮画獣譜写」などは、保存状態もよく、世界的に評価が高いという。ヨンストン「動物図譜」は老中・松平定信によって収集されたもので、ライオンなど日本にいない動物の銅版画を、谷文晁が筆で模写している。「当時は科学と芸術は分けられていなかった。芸術家は学術的側面もあった」と玉蟲教授。
 他にも抱一の弟子・鈴木其一、千住の琳派絵師・村越其栄に関するものもあり、琳派と地域性に一石を投じるものだという。コレクションとして収集したものでなく、信頼性も高い。「注文主とセットでわかるのは滅多にない」とのこと。地域の名士が文人・絵師たちの活動を支えながら教養を育み、豊かな文化が足立の広い地域に根づいていたことがわかる。
 今後も新たな資料が出てくる可能性があり、足立区では文化遺産の確認と調査を継続して行っていくとしている。

写真上2枚/鈴木其一 擢物「歌仙図」(郷土博物館調査収蔵)
中/西蛮画獣譜(江北・舩津家)
下/舩津文渕 小襖絵(中央本町・個人蔵)