足立朝日

この本

掲載:2020年12月5日号
★「危険なビーナス」東野圭吾著/講談社刊/900円+税
 この1年間で、第8刷を記録したラブ・サスペンスの面白さを、テレビドラマ界が見逃す訳はない。同書原作、妻夫木聡・吉高由里子主演のドラマを、毎週心待ちしているファンも多いことだろう。
 母の再婚により、富豪の矢神家の息子となった伯朗は、異父兄弟・明人の誕生で、孤独との折り合いをつけながら生きてきた。訳ありの親族がいがみ合う険悪な雰囲気にも耐え切れず、相続権を放棄して旧姓で生きることを選択した伯朗は、母の事故死により明人と再会するが、彼の様子に違和感。
 ある日、縁ある動物病院の院長代理を務める伯朗のもとに、異父兄弟・明人の妻を名乗る楓が出現し、明人が行方不明であると告げる。矢神家の相続問題で自身が明人の妻であることを証明したい楓の懇願で、伯朗は再び矢神家と関わることに。「お義兄様」を連発する楓に振り回されながら、伯朗は実父と義父の関係や、母の死の真相を知ることになる。画家であった伯朗の実父が描いた「寛恕の網」と、「素数」「ウラムの螺旋」をキーワードに進行するストーリーは、複雑に絡み合い驚愕の結末を迎える。
 「天才が幸せをもたらすとはかぎらない。不幸な天才を生むより、幸せな凡人を増やす努力をしたい」――明人の父であり伯朗の義父、そして脳を研究する医師・研究者でもある康治の想いが胸に沁みる。