足立朝日

北千住東口 老舗文具店トラヤ 75年の歴史に幕

掲載:2021年2月5日号
 北千住駅東口にある「学園通り商店街」の「文具トラヤ」(千住旭町)が、建て替えを機に12月31日(木)をもって閉店。75年の歴史に幕を下ろした。
 貼り紙で閉店が告知されてからは連日、名残惜しむ客が途切れることがなかった。子どもの頃からの馴染み客や親子3代で通っていた常連、中には閉店セールで初めて店の存在を知った人、「ずっとあると思って来たことがなかった」という人も。
 印象的だったのは、千寿常東小5年の女子児童3人。店長の遠藤友美恵さんに小さな花束と手紙を手渡し、「今までありがとうございました」と涙をこらえて挨拶していた。社会科の体験授業としてトラヤで受け入れた子たちで、手紙には「『私にとってトラヤは天国』と書かれていたんですよ」。後でそう考えてくれた友美恵さんの笑顔に、涙が滲んだ。
 同店は戦後間もない1946(昭和21)年に、先代の遠藤寅治郎さんが創業。一人娘の友美恵さんが2代目を継いで、夫の章さんを社長に、気心の知れたスタッフとともに地域に愛される店を守ってきた。
 近隣には小中学校、高校、かつてはデザイン専門学校もあり、近年は大学も開設。一般的な文房具から事務用品、個店では珍しいデザイン用や漫画用の画材なども扱うマルチな文具店として、子どもから高齢者まで幅広い顧客のニーズを支えてきた。また、章さんが学園通り商店街の理事長を務めたこともあり、多彩なイベントに尽力。商店街振興にも貢献してきた。
 建物は築40年近く、リフォームも考えたが、現行の法律では耐震に多額の費用がかかる。インターネットの発達による購買方法の変化、コロナ禍の追い打ちもあった。「お店に来て物を買う時代ではなくなった。跡継ぎもいないし」(友美恵さん)と閉店を決意。大型の受注納品の外商のみ続けていくことにした。
◆地域コミュニティの場として
 最終日、友美恵さんは開口一番「ホッとしました」と目を細めた。一番気がかりだった児童の体操着、校帽、名札など学校指定の品を、同じ商店街のテーラーグローリー、よしだや文具店にそれぞれ引き継ぎが決まり、肩の荷が下りた。
 27年間を振り返って「文具店の面白さは新しいものを見つけることかな」。客のニーズを汲み取って、新たに探し出した商品を加えていける柔軟性は、個店ならでは。足立区の文化芸術振興キャラクターとして誕生した「アダチン」のグッズをそろえ、常設コーナーのある唯一の店舗として話題になったこともあった。
 2人とも、閉店を機に自店の価値に気づかされたという。「コミュニティの場だよね」(章さん)、「子どもの頃から来ていただいていた人もいて、親しまれていたと実感しました」(友美恵さん)。
 今後の商店街や街のコミュニティとしての役割も、視野に入れている。
 来年1月末完成予定の7階建てのビルは、上階にトラヤの事務所と住居、下はテナントとなる。コロナ禍の厳しい状況だが、地域活性化につながる店に入ってもらえればという。「ビルができたら社会貢献できるようなものにしますよ。循環できるように」と章さんは話す。

写真/最終日、トラヤの前で遠藤社長と友美恵店長