足立朝日

この本

掲載:2021年5月5日号
①「社長戦力外通告」市川慎次郎著/プロスパー企画刊(非売品)
 「すさまじい本が出たな」――これが本書を読んでとっさに出た感想である。
 著者は、㈱中央シャッター、㈱横引シャッターの2代目社長の市川慎次郎氏(45)=写真右下。両社は、駅構内の売店などでお馴染みの横に引いて開閉する横引式のシャッターを約30年前に開発し、日本で特許を取得して製品化した会社。綾瀬6丁目に本社を構え、昨年創業50年を迎えた。足立ブランド企業にも選ばれ、NHKを始めマスコミに何度も登場している伸び盛りの企業だ。
 慎次郎氏は、昨年の本紙5月号「人」欄で紹介したように、先代で創業者の文胤氏の次男で、文胤氏の生き様や教えられたことなどを前作「親父の証明」という本で縦横に書いた。
 今回のこの本では、同氏の死後に起きた慎次郎氏本人が「悲惨」という事業承継の騒動とそれを見事に収拾した経過とやり方を、赤裸々につづった。そして、青春時代のことを付け加えて「市川慎次郎の自分史」とした。
 9億円あった借金をどうやって返したのか、また裁判までした実兄との信じられないような確執(というより決闘)の内容などが描かれているが、その解決方法が何ともユニークなのと、他の会社でも十分に使えるエピソードに満ちていて、興味深い自分史になっている。
②「お笑い作家の 東京漫才うらばな史」遠藤佳三著/青蛙房(税込2860円)
 4月14日、演芸作家の世界から一人の巨匠が天国へと旅立った。その人、遠藤佳三氏が遺した同書には、自身と漫才の歴史が詰まっている。
 博報堂の営業マンという安定した地位を捨て、夢見た演芸作家に転身することは人生の一大事であるが、妻・光世さんは乳飲み子を抱えながらも、あっさりと「やってみたら」。この力強い一言を得て、遠藤氏は昭和41年、30歳で夢に向かって走り始めた。
 縁あって、42年に大御所・小島貞二氏に師事したが、数百冊の資料を読破するところから始まった修行の道は険しかった。「お笑いを書きたい」一心で、与えられた課題を次々とクリアし、貪欲に学んでいく姿は圧巻だ。
 当時は空前のお笑い演芸ブーム。落語家では柳亭痴楽、林家三平、三遊亭歌奴の爆笑御三家、漫才ではコロムビアトップ・ライト、獅子てんや・瀬戸わんや、Wけんじ等々、大人気の演芸家がひしめき、テレビやラジオ、演芸場は最盛期を誇っていた。
 43年には、人気長寿テレビ番組「笑点」の構成メンバーに加わり、頭角を現した。55年からは若手漫才ブームが起き、三球・照代、セント・ルイス、ツービート、B&Bなどが台頭。
 多くの漫才師に台本を提供した遠藤氏の、お笑いへの飽くなき追求と才能が同氏を演芸作家の巨匠へと導いたが、常に「肩書無しの氏名のみの名刺」で、全人格をもってこの世界を駆け抜けた。合掌。