足立朝日

この本

掲載:2021年7月5日号
★「奇跡のバックホーム」横田慎太郎(元阪神タイガース)著/幻冬舎/1,540円(税込)
 「野球のことは忘れてください」……もし、人生を野球に懸けてきたプロ選手が、主治医からこのように告げられたら、どれ程の精神的ダメージを受けることだろうか。
 横田正之氏(元ロッテオリオンズ)を父に持ち、鹿児島実業高校で中心選手として活躍した横田選手は、2013年、ドラフト2位で阪神タイガーズに入団。2016年、引退した桧山進次郎選手の背番号24を背負い、開幕からスタメン登場。活躍したものの、一軍定着とはならず、復帰を誓って健闘する中で経験したのは激しい頭痛。
 大阪大学医学部付属病院を訪れて宣告されたのは、冒頭の言葉だ。病名は「脳腫瘍」。18時間に及んだ手術後、想像を絶する抗がん剤と放射線治療に耐え、視力が戻らないことに不安を抱えながらも、持ち前の強靭な体力と精神力でリハビリを続け、育成契約・背番号124番で復帰した。しかし、視力は回復せず、熟考の末にユニフォームを脱ぐことを決断。その彼のために、球団は異例の引退試合を準備した。
 2019年9月26日、鳴尾浜球場でのウエスタン・リーグ、ソフトバンク戦で見せた「奇跡のバックホーム」は、横田選手が全ての人に深い感謝の想いを込めて成した神業だ。最後に「ドラマ」を作った横田選手を愛情を持って育て、見守った球団の姿勢・想いにも胸が熱くなる。現在の横田元選手の生き方もまた感動的だ。