足立朝日

足立区生物園を人気施設に育てた 園長 関根 雅史 さん(51)

掲載:2021年9月5日号
ケニアでの体験が今につながる

 鳥、哺乳類、爬虫類、魚類、大温室では蝶が腕に舞い降りる。規模は小さいが、多種多様な生きものに会える生物園は、常に進化を続けている。
 関根さんは平成8年の都市農業公園・自然環境館の運営を皮切りに、荒川ビジターセンター、桑袋ビオトープと立ち上げに携わった後、同15年、年間入園者数7、8万人と低迷していた生物園に解説員として着任した。同26年に区の直営から指定管理への変更を機に園長に就任し、環境教育を軸に大改革に着手。入園者数は右肩上がりに増え、コロナ前には年間20~22万人の人気施設に育った。
 満足度、リピーター率も上がり、年間パスポート導入の効果も自負する。最も重視しているのが、解説員の常駐によるインタープリテーション(知識や背景などの解説)だ。「お客さんが1人だけで見て回って発見できることは少ない。その人が元々持っているものを引き出すんです。とことん質問してもらって、それを大事にしたい」と声に熱がこもる。解説員や飼育員を目当てに通ってくる子も多いという。
 小さい頃から動物が大好きで、野生動物の番組「野生の王国」を見てサバンナのライオンに憧れて育った。大学では森林動物学を専攻しニホンカモシカを研究。卒業後、青年海外協力隊としてケニアに3年赴任した。「ここでの経験が自分のその後の仕事、価値観に大きな影響を与えてくれた」
 念願の地は衝撃だった。首都ナイロビはイメージと違って大都会。そこから車で20分の国立公園では夢見た以上に感動したが、サバンナの向こうに摩天楼が見える現実も。
 貧困層の多くの子はライオンを見たことがないと知り、危機感を持った。観光で成り立っている国でありながら、資源である野生動物との距離があっては守ることはできない。NGOとともに子どもたちを国立公園に連れて行き、自然保護活動の必要性を考えるきっかけ作りに力を注いだ。 
 文化や風習の違いを知り、「異文化を受け入れる素地ができた3年間」。滞在中に出会ったケニア人女性と結婚。帰国後、「日本こそ自然と生活がかけ離れてしまっているのでは」と今の仕事に就いた。
 生物園園長職を「光栄」と温かい笑みに目を細める。「次の世代の子どもたちに教育できる施設はあまりない。大きな動物園にも引けをとらない活動ができている。ここでの体験は必ず大事な財産になる」。人間によって数多の生物が姿を消しつつある今、彼らを直接見て学んで欲しいとの願いだ。

写真/ミゼットホース(2019年に他界)と