足立朝日

江戸東京たてもの園 学芸員 小林 愛恵さん(38) 西新井在住

掲載:2022年1月5日号
研究の面白さを展示で伝える

 都立小金井公園の一角にある江戸東京たてもの園は、江戸、明治、大正、昭和の、保存しなければ失われてしまう様々な建物が並び、ちょっとしたタイムスリップ感覚を楽しめるひとつの街のような施設だ。1988年まで千住元町で営業していた子宝湯もあり、アニメ「千と千尋の神隠し」の銭湯のモデルと言われている。
 小林さんの仕事は多岐にわたる。植栽の点検や職人の調整、インフラの管理に加え、タヌキやアライグマが建築物に入らないように対策もする。来園者からの質問に答えるために、野鳥の種類にも詳しくなった。「植栽も展示の一部なので。専門とか専門じゃないとか言っていられない」とあっけらかんと笑う。施設全体の管理を任されている、まさに「雑芸員」だ。
 7年前に江戸東京博物館に入り、常設展の担当を3年間務めた後、1年間の都庁研修を経て、3年前から「たてもの園係」として配属。西新井の自宅から毎朝1時間40分ほどかけての出勤だが「慣れました」。
 子どもの頃から読書好き。「ラベルの原材料を読むのも好きで、なんでも書いてあるものに興味があった」。足立区に生まれ、栗原小、第十中から、隣接学区で文京区の高校に。「カルチャーショックでした。PTA会長が『本日はおしがらもよく』と言わないんだな」と破顏。制服も校則もなく、理文系両方を分けずに学ぶ自由な校風が性に合い、幅広い素地が育まれた。
 仏像の修復をやりたいと、「最初は弟子入りかなと思って、京都の有名な表具屋に連絡した」が、大学を出てからでも遅くないと言われ、文化財修復が学べる学芸大、同大学院と進学。在学中に江戸時代の浮世絵をはじめとする出版物の魅力に気づき、学芸員の道へ。「小さい頃、商店街で肉をさばいているのをじーっと見ているのが好きだった。畳屋とか布団屋で綿を入れているのとかも」。旺盛な探究心が今の仕事につながっている。
 「研究の内容を知らない
人に、自分の作った展示を通して面白いということを伝えられる」と学芸員の醍醐味と手応えを感じる。「ここ1、2年、今まで経験してきたことが全部仕事に結びついていっている。ようやくやろうと思っていたことができるようになった」。気さくで弾むような話術で、来園者の探究心への扉を開いている。