足立朝日

華道家・草月流いけばな師範 采女 栖佳(うねめせいか)さん(54) 千住在住

掲載:2022年4月5日号
基本は花の表情を見ること

 伸びやかな蔓が梁の上から垂れ、壁面に飾られた可憐な草花が箏の演奏を見守る。肩肘の張らない自然な佇まいの生け花は、築90年の古民家にしっくりと馴染む。
 「敬遠されがちな生け花を、子どもたちに気軽に体験してもらえる」と、立ち上げに参加した千住旭町にある和文化体験カフェ「rojicoya/ろじこや」で、空間装飾や生け花教室を担当。自身が自由に花を表現できる貴重な場でもある。
 昨年秋に手がけた幻想的な竹灯りイベントでは、子ども向けワークショップも開催。100本もの竹にドリルで細かい穴を空けて模様を描く作業は、分担したとはいえ気の遠くなる量で、「途中でもう無理と思った」と笑う。
 自宅ではアレンジメント、リースを教える傍ら、アルバイトで臨床検査技師の顔も持つ。
 足立区足立生まれで、五反野小、十一中出身。結婚、子育ても地元で、PTA活動では地域力の素晴らしさを実感した。朝の旗振りの際、「地域のおじさんが、いつも遅れて来る子の顔と名前を覚えていて、その子が登校するまで待っているんです。すごいですよ」。育った町の誇らしさに目を細める。
 意外にも中学生時代には、教師から姉兄と比較され「何をやっても姉、兄に勝てるものがないと思っていた」。高校生の頃、何となく通い始めた生け花教室が、「自分を表現できる場」へと導いてくれた。「生け花がなかったら、私なんて、といういじけた人生になっていた」
 96年に1年間、夫とカナダで生活。現地の花屋で働く中、アレンジメントとリースにも出会った。グリーンが主役の北欧のリースに魅せられ、ドイツの伸びやかなアレンジメントには、日本の生け花が取り入れられていることを知った。「生け花に還ってきたというか。生け花をやっていると、お花の表情を見極められるようになる。1本1本、きれいに見える角度や美しさを、確実に引き出すことが要求されるので」
 グラスにちょっと花を挿すだけでも、花の表情を読めるかどうかで美しさが変わる。コロナ禍で生活に花を置く人が増えてきた今だからこそ、「生け花は役に立つ。もっと身近に取り入れて気軽なものになって欲しい」。
 「野望は北千住の玄関を私のところで作ったリースで埋め尽くすこと」
 朗らかで気さくな語り口に、生け花の畏まったイメージに縛られない作品と似て、しなやかなたくましさが溢れる。