足立朝日

この本

掲載:2023年1月5日号
★「白石加代子『百物語』九十九話までの足跡」笹部博司著・編/星雲社/1650円(税込)
 演劇プロデューサーとして、演出家の故蜷川幸雄と組み、10時間に及ぶ大作「グリークス」、武田真治(初演)・藤原竜也(再演)・白石加代子による母と息子の禁断の愛の物語「身毒丸」などの超話題作を企画・上演してきた著者――。
 白石との縁を得て、1992年に怖い話を読み語る「百物語」シリーズ第一夜を、満席の岩波ホールでスタートさせた。それから22年、集大成の第九十九話・泉鏡花「天守物語」に至るまでの、著者と白石との各作品に対する想いが、同書で忌憚なく語られている。
 それと同時に、私たちがテレビドラマ「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」などでよく知る名演出家の故鴨下信一が、舞台の世界でも秀でた存在であり、歌舞伎・落語・能などの日本の豊かな芸能を、白石を通じて再現したかったことを知らしめてくれる。
 また、「百物語」は、第一線の作家たちの参入もあり、書下ろし企画も実現。小説の現場を巻き込み、演劇を創るという初の試みにも繋がった。言葉を創り出す作家たちから「百物語」が認められ愛されたことを、著者は何よりも誇りに思う。
 巻末には、著者と白石が「百物語のナンバーワン」と考える、筒井康隆「時代小説」のDVDが添付されている(商品ではなく、資料としてホームビデオで撮影。再生まで要時間)。「百物語」の世界を、まずはご覧あれ!