足立朝日

羅針盤 VOL.139

掲載:2023年4月5日号
 季節の移ろいは早いものである。
 わが足立区では、3月14日(火)にソメイヨシノの開花宣言が出た。あとはもう、梅雨のような雨と寒い天気が続き、3分、4分、満開を経て4月になだれ込んだ。
 桜のあとは、街路ではピンクと白のハナミズキが咲き、多摩や山梨では桃、杏花(杏)が「桃源郷」を成し、植物や自然の輝きとともに、人々も動き出す。
 旅に生きた俳聖松尾芭蕉は、元禄2年(1689)3月27日(陽暦5月16日)早朝に、江東区深川の芭蕉庵を舟で出た。「千住といふ所にて舟を上がれば、前途三千里の思ひ胸にふさがりて……」(おくのほそ道)と書いた。そして「行く春や鳥啼き魚の目は涙」の名句を残した。
 歌舞伎では、将軍が鷹狩などで千住大橋を渡る時に、留守居の家来たちに今生の別れを告げる。ここでも涙。
 今、ウクライナでは多くの子どもたちがロシアに連れ去られていると言う。ここでの父母らとの別れ、涙は、癒されることのない涙である。決して平和を武器に変えてはならない。 (編集長)