足立朝日

八木景子監督ドキュメンタリー映画 捕鯨問題を食から問う 「鯨のレストラン」9月2日(土)公開

掲載:2023年8月5日号
 鯨料理と聞いて、思い浮かぶのは竜田揚げぐらいだろうか。映画の冒頭から刺身、パスタ、ハンバーガー、ラーメンなど多種多様な料理が次々と登場し圧倒される。
 千住出身の八木景子さんによるドキュメンタリー映画「鯨のレストラン」が、9月2日(土)に封切られる(新宿K‘s cinemaほか順次全国公開)。
 8年前の初監督作品「ビハインド・ザ・コーヴ」は、和歌山県太地町のイルカ漁を批判した映画「ザ・コーヴ」への反証として制作。日本がなぜ標的にされるのかを追求、環境活動団体シーシェパードのリーダーや「ザ・コーヴ」の監督、IWC(国際捕鯨委員会)関係者、生態学の専門家などから次々に証言を引き出し、反捕鯨活動の裏側を暴いた。第39回モントリオール世界映画祭ドキュメンタリー部門に出品し、世界中のメディアから注目を集めた。
 今作は「食」に焦点を当て、クジラ料理の魅力と、そこから辿る食料資源をはじめとする環境問題などを問いかけた。神田の鯨専門店「一乃谷」の大将を中心に、元ワシントン条約事務局長、農学博士、捕鯨会社社長などの他、一乃谷常連の樋口真嗣監督(「シン・ゴジラ」)も登場する。
 日本では古くからクジラは身近な資源であり、骨まで大切に活用してきた歴史がある。日本人が高度成長期に、タンパク源として最も食べていたのはクジラだったという。現在は当時のわずか1%。
 今回、料理をテーマにしたのは、「前作では日本側と反捕鯨の言い分を詰めこんだので、鯨の魅力を伝えられなかった」と八木監督。地球環境や食料問題にも切り込んでいる。「大量の魚を餌とする鯨を獲らなくなったことで、海の生態バランスが崩れている。人間が食べることが環境にいいことに、私も驚かされた」
 昨今、食料不足やヴィーガンを唱える人が増え、昆虫食や人工肉が話題になる。だが、人工肉の原料である農作物のために森林が伐採され、また、肥料の流出により海の水質を悪化させていることがわかっている。
 「日本の食料自給率はカロリーベースで3割。外国から買えばいいというのは、日本の外交力のなさを示している。縄文時代から縁起物として食べていたもの、先人が崇めてきた鯨の文化を衰退させてしまった。このことを知って考えるきっかけになれば」。八木監督の強い思いが伝わる。

写真上/前作でシーシェパード創立者ポール・ワトソンに取材した八木監督
下/鯨専門店「一乃谷」の大将