足立朝日

「気がつけば生保レディで地獄見た。」を出版 古書みつけ/伊勢出版 代表 伊勢 新九朗 さん(42) 足立区在住

掲載:2023年9月5日号
大人も子供も本と出会って

 レトロな趣の空間に、古書特有の落ち着いたたたずまい。そんな古書店が本を出版した。忍足みかん著のノンフィクション「気がつけば生保レディで地獄見た。」(6月号「ピ
ープル」)だ。しかも賞を設けた公募とあって、話題を呼んだ。
 浅草橋で編集プロダクション「伊勢出版」(TEL5846・9193)を営む。雑誌や書籍の編集を請け負う傍ら、2019年10月、古民家を借りて「古書みつけ」を開いた。ガレージだった1階を店に改装、会社はその2階に移転した。映画関連の学校出身ということもあり、最近は動画撮影も手掛けていて、古書店、編プロ、出版、動画と4足のわらじで目の回るような忙しさだ。
 ノンフィクションにこだわるのは、「そこに人生や物語がいっぱい詰まっているから」。しがらみのない個人出版社にしか出せない本があり、成功例もある。「出版はダメだと言われているけど、他のメディアで出来ないことができる、これこそ出版」と意気込む。
 「社会派っぽいテーマを引き続きやっていきたい。エンタメにして社会に問う投げかけになれば」。次作出版も決定していて「お仕事ノンフィクション」のシリーズ化を目指す。「年2本、1本1万冊が目標」。 
 古書みつけでは、本が好きな人が日替わりで店主を務め、週1回、著者の忍足さんも店に立つ。情報過多の時代、「著者に会える古本屋にできたら」と、若い人に本の情報を届けるために模索する。
 父が本好きで、子どもの頃から常に本のある環境で育った。「本を読むと、救われたり楽しめたり生きていこうと思える。人に影響を与えられる。漫画もいいけど活字は想像力が膨らむし、脳に一番の刺激になる」
 妻はキッズパフォーマンス集団「ほしかぜ」主宰のKAEDEさん。4姉妹の子育てのなか、家族で読書会を月1回開き、中2の長女、小6の次女、夫婦の4人で同じタイトルの本を1カ月かけて読んで、感想を話し合う。選書は回り持ちで、世代を超えて自分の好きな本を共有することで、新たな発見もある。
 足立区は「子どもにも大人にも、本と出会ってほしい。今は生きづらさを感じている人が多い。でも本があれば、きっと人生はつまらないものじゃなく、生きていける。絶対にどこかで自分に刺さるもの、人生を変えてくれる本と出会える。そういうものを作っていきたい」
 本への情熱が言葉の端々から溢れ、迸る。