足立朝日

俳優/江戸太神楽「丸一仙翁社中」の 三味線奏者・仙吉 井上 浩 さん(62) 足立区在住

掲載:2023年11月5日号
三味線の生の音色を知ってほしい

 ゆうるりとした三味線の音色は、時間の流れをゆっくりしたものに変え、日本古来の祝い芸とともに、和みを提供してくれる。
 激しい津軽三味線とは違い、風流という形容が似合う。三味線の好きなところは、「共鳴する特有の音色の奥深さ」。30歳頃、劇団の先輩から習い事を勧められ、「落語が好きなので、出囃子が弾けたらいいな」と始めたという。
 本業は俳優。サラリーマンだった20代前半、演出家・蜷川幸雄が劇団員を募集しているのを雑誌で見かけて応募した。落選したが群衆役として声がかかり、退職して参加。思い切った決断だが、上司の姿に自分の未来を重ね変化を求めていた時期だった。稽古1カ月、本番1カ月の初舞台を終えた打ち上げで「いい大人が感動でボロボロ泣いているのを見て、こんなことがあるんだと」。悟った気になっていた若者には衝撃だった。劇団テアトロ海に入団し、35歳まで在籍。
 現在、数々のドラマや舞台、朗読劇にも出演している。特に朗読劇は「落語と同じように想像でどんどん世界に入って行ける。いい脚本と巡り合えると病みつきになる。演じるのも心地いいんですよ」。
 2004年に役者でもあるメンバーの仙若氏に誘われ、丸一仙翁社中に参加。東京都指定無形民俗文化財の「江戸の太神楽」は、獅子舞や傘の上で茶碗などを回す曲芸などを見せる縁起物で、老若男女問わず笑顔にする日本古来のエンターテインメントだ。丸一は江戸時代から続く屋号の一つで、同社中は年に数日、六義園で披露しているほか、正月には日本橋界隈で角付けを行っている。
 とはいえ、「太神楽は伝統芸能業界の中でも絶滅危惧種に近い。体験してもらわないと楽しさや感動が伝わらないと思うので、見てほしい」。三味線の生音を聞いてもらう機会でもあり、「糸を張った直後はいい音がする。それを感じてほしい」と、興味を持った子には積極的に触れさせている。
 12月には丸一仙翁社中の公演がある。「一人でも多くの人にぜひ見てほしい」。穏やかなナイスミドルの眼鏡の奥で、情熱が静かに燃え続けている。
◆出演情報=ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(テレビ朝日・水曜午後9時)第4話(11月9日予定)。スナックの酔客として十八番の「ロンリーチャップリン」を熱唱!
◆連絡は丸一仙翁社中