足立朝日

足立区伝統工芸振興会会長&東京マイスター 坂巻 亨 さん(78) 千住緑町在住

掲載:2024年1月5日号
名人たちとともに、人生を極めたい

 12月中旬、区役所1階ホールに設けられた展示場は、授業の一環として見学に来た梅島第一小4年生2クラス45人のにぎやかな声に包まれた。 
 「足立伝統工芸品展」。中でも坂巻さんのいる東京銀器のブースが人気。「これ作るのに、どういう道具を使うんですか?」との小学生の質問に「銀の板とか金槌や木槌で叩いて形を作るんだよ」と話す坂巻さんの優しい声が響く。この日は、バッグやアクセサリーにあでやかな模様を描く江戸刺繍、根付や干支の置物などを見事に彫り抜いた江戸木彫刻、版画絵や景色などを粋に染め抜いた本染めゆかた・てぬぐいなど11ブースに、11人の職人が道具を駆使して実演・販売を行った。
 坂巻さんは、銀で作る食器やスポーツの賞品としてのプレートなど「東京銀器」を作って約60年。技術を磨き、父親の代から伝統工芸を守り抜いて来た。銀の素晴らしさを子どもたちや一般の家庭にも伝えたいと、国の援助も得て、区内を中心に小学校をはじめ各会場に通い、銀を叩いて指輪類を作る「鍛金」体験を実施。ここ3年は、コロナ禍で中断したが、その数50校以上。
 「みんな興味があるんだね。夢中になって作り、形になると大喜び。この若い子たちに伝統の技を継がせたいね」とポツリ。
 区が認定する足立ブランド製品になり東京マイスターにもなった。また、写真や無線にも手を出すが、すべて一級レベル。
 昨年4月から14種、33人の伝統工芸職人で作る「足立区伝統工芸振興会」の6代目の会長になった。
 あらゆる物を極めたが、本人は千住緑町の自宅で、自作の銀のおろし金でおろした生姜を添えた豆腐を肴に、注いだ酒の中に銀の玉が浮かび上がる「玉杯」で冷酒をあおりながら、「まだまだ人生を極めたい」と天を仰ぐ。
 和ブームである。「給料」を行政に補助してもらい、若い伝統工芸職人を育てる他区のような事業の実現のため、もうひと肌脱ぎますか、坂巻さん。