足立朝日

区内の銭湯が舞台化 人を思う気持ちを伝えたい 名物店主もモデルに

掲載:2024年6月5日号
 区内の銭湯と銭湯店主をモデルにした舞台「銭湯来人」が、7月に赤坂の草月ホールで上演される。屋号と店主の苗字は実名で登場! 「あだちの銭湯広報隊長」としてSNSで発信している女優のあやかんぬさんが、原案と企画プロデュースを担っている。

 昨年、足立区浴場組合(堀田晃一代表/玉の湯=綾瀬2-37-4、TEL3602・2430)によるTikTokの動画が、ちょっとした話題を呼んだ。なんと銭湯店主たちが、曲に合わせて浴室や脱衣場で踊っているのだ――。普段は気難しそうなオヤジたちの前代未聞の姿が、若者に「親しみやすい」「面白い」と反響。銭湯に行く若い世代が増えた。
 この勇気ある挑戦を発案したのが、あやかんぬさん。組合の前代表・山田知孝さん(若松湯=中央本町2-19-11、TEL3886・5230)との世間話の中で、何か銭湯を盛り上げることをと、Z世代に注目される動画を思いついたという。その際に区内の銭湯全25軒(当時)を取材したことが、舞台企画のきっかけになった。
 「気持ちが動く瞬間をいただいた」とあやかんぬさん。毎日、入浴客と会話するという88歳(当時)の店主や、開店前に一番風呂のために並び、閉店前の仕舞い湯にも訪れ1日2回入るという常連客。入浴客との交流や商店街の人々との触れ合いを通して、「銭湯に根づいているのは、人が人を思う気持ち」と実感、スーパー銭湯やサウナとは違う「まちの銭湯」にしかない魅力を肌で感じた。
 「この気持ちを舞台にしたい!」。所属事務所ワンダーヴィレッジが舞台製作を手掛けていることから、企画が進んだ。偶然、プロデューサーの母の地元が五反野で、子どもの頃に若松湯に行ったことがあるという、不思議な縁もあった。
◆昭和と令和の物語
 舞台には実名も多数登場する。若松湯の名物店主の山田湯隆が病に倒れ、父の代わりを任された息子の来人は大の風呂嫌い。家出中の母、アイドル活動中の妹には頼れず、施設の老朽化も進み廃業もよぎる。湯隆は「死ぬ前にもう一度だけ」と病院を抜け出すが、足を滑らせて湯の中に落下。慌てて来人が引き上げた父は、なんと青年の姿になっていた……。
 昭和64年の姿と心に戻った父と、同い年になった息子。昭和の若者と令和の若者の、環境や価値観のジェネレーションギャップを通して、不器用にぶつかり合いながらも誰かを大切に思う人々の物語が描かれる。
 脚本にはあやかんぬさんが山田さんから聞いたエピソードが盛り込まれている。千住の「梅の湯」(千住旭町41-11、TEL3881・6310)の梅澤幹雄店主も登場(役名=太雄)。ダンス動画撮影の際に手助けしてくれて頼もしかったアニキ的存在として、真っ先に浮かんだという。
 足立区の銭湯店主には、他にはない結束力がある。意見がぶつかることがあっても、それを乗り越えて協力し合うのも見た。「今の時代、本音も言いにくい。でも、ぶつかり合いの中から信頼関係が生まれる。銭湯は人と交わる場所。体をきれいにするだけじゃなく、そこでしか味わえない、得られないものがある」
 ちなみに、あやかんぬさんは、アイドル活動中の長女役で出演。「舞台を観たお客さんにも、何か持ち帰ってもらえたら」とワクワクしている。

◆舞台◆「銭湯来人」

【日程】7月20日(土)~28日(日)※22日(月)は休演
【場所】草月ホール(銀座線・半蔵門線・大江戸線「青山一丁目駅」4番出口徒歩5分)
【料金】S席/8,800円、U25/7,800円(入場時身分証提示)、親子ペア割/10,000円(6歳~中3)、見切れ席/3,000円
【問合せ】MAIL=ワンダーヴィレッジ

写真上/舞台のポスター。近々区内銭湯にお目見え
中/長女・山田千役に扮したあやかんぬさん
下/若松湯で山田店主(左)と