足立朝日

この本

掲載:2024年9月5日号
★「気がつけば40年間無職だった。」難波ふみ著/古書みつけ刊/1650円(税込)
 「私は40年間、一度も働いたことがない。」――本編冒頭の衝撃的な一文。なぜ、働いたことがないのか、それでどうしてやってこれたのか。疑問が一気に押し寄せてくるが、読み進めていくうちに一人の女性が歩んできた人生が次々と紐解かれ、波乱万丈さに圧倒される。
 浅草橋の古書みつけによる「気がつけば○○シリーズ」第3弾。第1回「気がつけば○○ノンフィクション賞」の最終選考に残った4本のうちの1本で、その得も言われぬ引力で選考委員たちを惹きつけ出版に至った。著者の人生での「初仕事」だ。
 引きこもり、精神障害、家族との軋轢――数々の内面の問題を、当事者が自らと向き合い赤裸々に綴っていることに驚かされる。感情の嵐吹き荒れる内容のはずが、自身を俯瞰する能力と分析力、飾らない文章と相まって、自分の体験の一部として理解できたような距離感を覚えるから不思議だ。誰しも著者と同じような病の芽が、心のどこかに潜んでいるからかもしれない。とにかく、手書き(今どき!)で書き上げた苦労の結晶は、苦しみも面白く読ませてしまう力がある。
 完璧主義や潔癖症が自身を鎖のように縛りつけ、苦しめる。自覚していても、変えられないから病なのである。それでも、変えたいともがきながら前に進み、人と出会い、持ち前の「勘」を信じて何かを選び取り、自らの道を切り拓いてきた著者の、弱くてたくましい姿。読後は、自分にも他人にも寄り添える柔らかさが生まれる、そんな1冊だ。