足立朝日

貝の中を旅する芭蕉と曽良 夢工芸 染の新井

掲載:2008年5月20日号
◆◇貝の中を旅する芭蕉と曽良
5月24日(土)~6月1日(日) 夢工芸 染の新井

 ハマグリの貝殻に絵を描いたもので遊ぶ「貝合わせ」。そんな小さな貝の中の奥の細道を旅する芭蕉と曽良が、呉服店「夢工芸・染の新井」(西新井六丁目)で見られる。
 店主の新井重男さんが足立区への感謝の気持ちをこめて、専属の友禅作家・小守脩さんに依頼して、千住大橋など昔の区内風景シリーズを描いた着物を発表したのが一昨年。今回は千住宿から旅立った松尾芭蕉の「奥の細道」に登場する風景を、貝合わせで再現している。
  左右10㎝ほどの貝の内側には、虫眼鏡を使わないと細部まで見えないような細かい風景が、見事に描かれている。
 最初は丁度いい大きさのハマグリを探すのも一苦労で、鹿島灘まで2人で買いに行ったという。そこから先は小守さんの地道な作業が続く。昔ながらの方法で貝の裏側に和紙を貼り、墨や顔料で丁寧に絵付けをしていく。拡大レンズを覗きながらの作業は目と神経への負担が大きく、休みながらでないとできない。日光の陽明門など溜息が出るほど細かいが、「一番難しいのは顔。人相がわかってしまう」と言う。
 絵よりもさらに難しいのが、上下にある金箔の部分。膠(にかわ)で溶いた胡粉(貝の粉)を5回塗り重ねて亀甲の模様を描き、その上に薄い本金箔を貼り付ける作業は、とにかく忍耐が必要。「最初は手探りだったが、進歩しながらやっている」と小守さんは初挑戦の作業の苦労を話す。
  新井さんは「千住大橋から始まって、今は松島まで5対完成。最後は大垣までいきたい」という。2年後の完成を目指して、芭蕉と曽良はゆっくり貝の中を北上していく。
  5月24日(土)~6月1日(日)、夢工芸で展示。絵付けの実演予定もある。TEL3854・2777


左右で一対。上は千住大橋。下は白河の関