足立朝日

あだち俳壇選者 「門」主宰 鳥居 真里子 さん(76) 千住桜木在住

掲載:2025年4月5日号
夢中になれることの幸せ

 洗練された17文字の中に、時折、夜の気配と花の香りが立ち上り、生命が妖しく息づく――。情感をくすぐる句は抽象的とも捉えられがちだが、「私にとっては写生句。人から見ると違うみたいだけど」と明るい眼差しで笑う。
 本木生まれ、千住に住んで45年。中学生の頃は旧日光街道沿いにあった映画館で、「若大将シリーズ」をよく観たという。大学誘致で活気づくと同時に、懐かしい風景が失われていく街の変化を実感している。
 俳句を始めたのは37歳。義兄の鈴木鷹夫氏が俳誌「門」を創刊した際、姉の鈴木節子氏に誘われて入会。結婚前に友人と詩の同人誌を出していただけあって言葉への感性が豊かなことに加え、姉の俳句に触れていた門前の小僧で、「私に合っていたんだと思う」という。
 義兄と姉の後を継いで、令和2年に「門」の3代目主宰となり、隔月(昨年までは毎月)の編集作業に加え、「俳句四季」選者、4月からは通信講座なども手掛ける。丸一日休める日はないが、「好きだから」と飛び回る姿は若々しいの一言。
 「俳句って脳トレになるんですよ。辞書を引いて、いろいろな意味も読みます」。例えばヒガンバナの「曼殊沙華」は、地域によって様々な呼び名があり、「狐のかんざし」「剃刀花」など、想像力を掻き立てられる。
 また「健康にもいいんですよ」とも。吟行会で歌舞伎鑑賞や、公園、動物園を訪れるが、高齢者が苦も無く1時間半かけて歩いて句を考え、世代を超えて多様な人と交流する。「動物も細かく見て、いろいろなことを考える。同じものを見ていても人によって全然違う」。選句作業も、自分とは違う感性と出会える楽しさがある。ちなみに「あだち俳壇の人は上手」とのこと。
 俳句の世界に入って39年目。考えて作ることが身についているが「出来た句を後で見返すと、その時の心の揺れが表れているんですよ」。まだまだ奥が深いと感じる。「12月で喜寿。好きなことがあって夢中になれることがあるのは幸せ」
 俳句とは? しばらく考えた後に「あの世に行くまでの道連れ、相棒、伴走者かな。一緒に走ってくれる人」。しなやかな感性が独特な言葉を紡ぐ。