足立朝日

社会との接点を再び得て前へ

　社会福祉法人つくしの郷（米山泰志理事長）が、東京都認証ソーシャルファーム事業所「あまーの あまーの北千住」を日ノ出町にオープンしてから１年10カ月――。同店では障害や病気による就労困難者がスタッフとして活躍し、地域の人々に愛されている。
　レジでは、株式会社オリィ研究所（吉藤健太朗・笹山正浩代表取締役）が開発・製作する分身ロボットOriHime（おりひめ）も大活躍し、来客の興味関心を集めている。それを自宅から自在に操作するパイロットは、米重ちふゆさんだ。
　中３の時に人気バンドの舞台を観たことで音響の世界に憧れた米重さんは、「何か特別なキャリアがなければ生き抜くのは難しい」と考え、高校卒業後に単身アメリカへ。専門学校で音響を学び、技術を習得した。帰国後、師と仰ぐプロに弟子入りし、音響エンジニアとして15年のキャリアを積んだ。元気そのものであった生活が一変したのは35歳の時。突然自転車のペダルが漕げない状態に陥り、翌朝は全く起き上がることができず、以降、どの大病院へ行っても原因が判明しない状況に。
　車椅子生活に入っても、米重さんは決して諦めることなく、インターネット検索で自分の症状と合致する「慢性疲労症候群」に行き着いた。高額な自由診療を受けたこともあるが自分には合わず、現在の主治医が行う和温療法により、やっと身体が楽に感じる日が増えた。但しこの病は、明日には急変することもあり、体調の変化が著しい。それでも「それまでは家に籠り、社会との接点もなく自分の存在価値さえ感じられないことが寂しくて孤独だった。今ではOriHime越しに私の存在を感じてもらえたり、人の役に立てているかもしれないと思えてとてもうれしい」と声を弾ませる。
　この病名が医療従事者に認知されていない弊害は大きいが、米重さんは今の主治医と巡り会えた。同様の症状で悩む人々に、せめて周囲の人間が「こんな病気の話を聴いた。専門病院に行ってみては？」と声掛けできることを願い、音楽好きの夫・吉弘さんと共に、ライブハウスで病について語り、チラシを配布。さらに大学の外部講師として講演するなど「啓発活動」も行ってきた。
　「医療従事者を始め多くの方々に、コロナ後遺症として発症する例もある身近な難病であることを伝えたい。同時に皆さんにはあまーの自慢のジェラートとコーヒーを味わいながら、普段の会話も楽しんでほしい」と望む。
　同店での米重さんの勤務は、毎週火曜日から金曜日、午前11時から午後２時まで。OrihiHimeを通じての会話希望の場合は、電話で予約を。TEL６８０６・２３０７