足立朝日

「路地裏寺子屋rojicoya」代表/書道家(なすご龍芳) 米本 芳佳 さん(39) 千住旭町

掲載:2026年9月5日号
インバウンドで和文化を守りたい

 着物、侍、浮世絵、和楽器――様々な和文化が海外の人々を魅了する。
 「文化や歴史を詳しく知りたいと来日する人たちは、リスペクトを持っていて、質問の掘り下げ方がすごい。それによって、和文化がさらに磨かれていくと思う」
 殺陣や書道教室から始まり、街歩き(8面参照)や落語会(6面参照)を継続開催。2024年には区内に伝わる「足立姫伝説」を題材にした和菓子やオペラ、イベントを企画し、観光庁の採択を得て展開。今年も足立姫と五色桜をテーマにした江戸紅型の手ぬぐいや浴衣、篠笛など、区内外の企業と製作を進めている。
 活動の拠点は、築80年以上の古民家を活用した「路地裏寺子屋rojicoya」。2020年に和カフェ兼和文化体験教室としてオープン。コロナ禍真っ只中で、和文化を支える工芸の担い手の廃業が相次ぐ状況に、「日本のものを正しく残すために、海外の市場が必要」と思い至った。
 インバウンドというと、マナーの軋轢などマイナス面が話題になりがちだが、「知識欲のある層をターゲットにすることで、街が荒れるのは避けられる」。千住に宿泊するだけでなく、街を歩いて江戸文化を知ってもらいたいと、困りごとの案内役も兼ねる。
 インバウンド協議会を立ち上げ、足立区だけでなく、墨田・台東・中央区とも連携しながら、地域の工芸の活用と発信にも力を入れている。江戸の伝統文化が東京から失われつつあることへの危機感と焦燥感が、多忙な日々の原動力になっている。
 活動の根源には、独身時代に訪れたインドでの経験がある。「自分の国が好きな子ばかりで、多幸感がすごい。老人が『子どもたちが元気だから、この国は大丈夫』と言っていて、まさに今、発展している」。そのエネルギーに圧倒されるとともに、日本の子どもたちに、自国の歴史や文化の知識が足りないことを痛感した。
 出身は福岡県。東京で看護師になり、多くの人を看取ってきた。「不思議なことに亡くなる3日前に意識がはっきりするんです。最後に話すのが、家族にこうしてあげたかったという後悔。元気なうちにそうしていたら、人生は違っていたはず」。我が身を顧みることにもなった。
 好きな仕事だったが、結婚、出産を経て、退職。地域との関わりが増え、ママ友の関係性に縛られないイベントを主催。その中で、書道の腕を生かして子どもの名前を使った即興の詩を書くと、感極まって泣くママもいた。「それが、すごくうれしくて」と、ふわりと笑う。
 その後、「和文化継承委員会まほろば」の榎本龍晃氏と出会い、「和の芸術祭」を開催。「日本の子どもたちに一流の和文化を見て、自信を持ってほしい」との思いが、「ろじこや」へとつながった。 「歴史を大事にできることは、文化を大事にすること。本質を極めている人を応援したい」。強さを秘めた眼差しは、3児の母であり、和文化の守り手でもある。