足立朝日

油彩・水彩画家  宮本 裕子さん(62歳) 

掲載:2009年10月5日号
千住曙町在住

自分の絵が役立つことが喜び

  明るい色彩で描かれたイタリアの街角が、訪れる人をやさしく出迎える。絵からあたたかい光が、周囲に広がっていくようだ。

 飾られているのは、07年に開所した身体障害者単独療護施設「竹の塚あかしあの杜」の玄関正面。あいのわ福祉会(岸本美惠子理事長)に、宮本さんが描きためた中から、明るい絵14点を選んで贈った。「絵を見て子どもたちが、わーっ、と喜んでくれた」と、その時のことをうれしそうに話す。他にも更正施設・清和会やアリゾナ州老人ホームなど、様々な福祉施設に寄贈してきた。
 子どもの頃から絵を描くのが好きで、上野の都美術館・朔日会公募展に27年連続で出品、今は朔日会会員として日々創作を続ける。
 チャリティーに最初から興味があったわけではない。夫の仕事で7年半シンガポールに滞在していた時、国民の4分の1が日本人に親族を殺されたという驚愕の歴史を知った。「日本人として、のんべんだらりと暮らしていることが申し訳なくなった」。
 十数年後、再度渡った現地で絵を気に入ったインド人夫妻の依頼で、障害者施設のチャリティーカードを作ったことが運命を変えた。その後は、有名ホテルからのチャリティー出品依頼などが、次々に舞い込む。宮本さんが水彩画を提供し、インド人とイギリス人の友人と共に作った脳性マヒの子が主人公の絵本「三人の特別な友達」もシンガポールで出版した。
 海外と日本との違いを感じることは多い。「障害者への周囲の手助けのオープンさ。日本では、障害者を直視するのは失礼という感覚だが、周囲が、手伝いましょうか、と自然に言えたら、母親は楽になるはず」と語る。
 生死に関わるつらい体験もしてきた。だが宮本さんの絵には常に希望の光が満ちている。「人は一人で生きていけないもの」。絵に必ず家族の姿を描き込む筆に、その想いがこもる。
 障害児たちに絵を教えることが今後の目標だ。「自己表現できれば、すっきりするのでは。お母さんにも必要かも」。
 いつもどこからか吹いてくる風が、人に手を差し伸べようとする宮本さんの背中を押す。

写真=朔日会に出展する作品を製作中