足立朝日

全日本かるた協会専任読み手 五味 朋子さん(50歳)

掲載:2010年6月5日号
千住大川町在住

一瞬にかける集中力と緊張感が魅力


 体育館に響き渡る、袴姿の女性の朗々とした声。今年3月、区内初の小中学生百人一首大会で、五味朋子さんが読み手を務めた。 現在全日本かるた協会の専任読み手は、東に3人、西に5人の計8人。その下にA級・B級公認読み手がいるが、専任だけが名人戦、全日本選抜戦など主要大会で読む資格を持つ。五味さんは今年に続いて、来年正月の名人戦にも決まっている。
 千寿第三小、第三中出身。元々は読み手でなく選手だった。小さい頃から親戚が集まった時の遊びが百人一首で、大人たちに勝ちたいと、中1で大人のかるたサークルに入会。就職後、真剣に取り組んでいたが平成8年、当時唯一の専任読み手が体調を崩したことから急遽2人選出、声が良く通る五味さんに白羽の矢が立った。以来活動は読み手中心だが、今でも「取る」楽しみはやめられない。
 かるたの魅力は、なんと言っても「あの緊張感」という。「普通の生活をしていたら、一瞬にあれだけ集中することはない」。ただ、頭でわかっても、練習していなければ手が出ない。「スポーツですよ」と笑う。
 名人戦やクイーン戦ともなれば、東日本代表になるにはトーナメントで1日に6試合勝つ必要がある。読み手も真剣だ。マイクを通すと聞き取りにくくなるため、生の声で100枚近く読み上げる。相当きついが、大事なのは言葉の明瞭さだけでなく、「間」だという。
 かるたは先に下の句を読み、次の上の句で取る。「下の句と上の句の間にある、1秒の間がすごく大事。このタイミングで息を潜め全神経を集中するので、その間がバラバラだと取れない」。選手としての経験が、読み手の使命感に繋がる。「98枚うまく読んでも、1枚が下手で、それで流れが変わってしまったら気の毒。安心して聞ける読み、それが難しい」。何年やっていても気を使う。楽しんでできる作業ではない。
 「かるたが好きだから、ずっとやめられない」と、晴れやかに宣言する笑顔に想いが溢れる。さびしいのは、今の家庭には畳みの部屋や百人一首がないこと。「たとえ坊主めくりでもいいからお正月にやって、もっと子どもたちにかるたを知ってほしい。子どもの頃覚えた人は忘れない。こういう歌があることを、知ってもらいたい」
 慣れ親しんできた日本の伝統を、こよなく愛する五味さんの願いだ。