足立朝日

倍音楽器演奏家・イベント演出家 シマカワコウヂさん(34歳)

掲載:2011年5月5日号
千住宮元町在住
事実から学び、伝えることが大事


 即興の演奏が響き、店内は異空間のような不思議な空気に包まれる。北千住の倍音(ばいおん)カフェ&バー「COSMIC SOUL」では、お馴染みの光景だ。奥にはマスターのシマカワコウヂさんが集めた、謎の物体にしか見えない楽器が、所狭しと並んでいる。
 自らは倍音楽器演奏者を標榜し、操るのはモンゴルのホーミー(倍音唱法)、馬頭琴、口琴など様々。旋律よりも、自分と地球を共振させるような響きを奏でる。10年ほど前、「内側に伝えたいものがこんなにある人は、音楽をやった方がいい」と言われて始めた。
 表現活動は音楽に留まらない。交流の広さを生かして、盆栽展、ライブなど、幅広く多彩なイベントを企画。その中で、大きく占めているものがある。昨年、被爆者を写したポーレ・サヴィアーノ写真展を、出身地・長崎で開催。浅草では空襲体験者から証言を聞く会を企画し、その内容を伝える紙芝居も制作した(※)。だが、シマカワさん自身は「反戦運動ではない」と言う。
 「反対でも賛成でもない。ただ事実から学び、つなぐことが大事。1つの価値観を押し付けることではない。いずれ化学反応が起きれば」。強いメッセージは影響力を持つが、自ら考えようとしない共感者を作り、同時に反発も生むことを知っている。
 10代の頃、脚本家の小山内美江子さんが代表を務めるNGOの第1期生として、カンボジアで学校を作る活動に参加。学んだものは多い。「その時々で、一番大切なことを決める能力には自信がある。舞い降りてくる幸福感は、我欲でやることとはまるで違う」と話す。
 今、未曾有の大震災により日本が直面している危機的状況に、「地球と人間」を意識する。「今あるのは、産業革命以降の200年ぐらいで、たまたま出来上がった文明。考え方を変えないと。貧乏って豊かだよねということを流行らせられれば」
 原発の風評被害に対しては、痛みを知る土地だからこそと、被災地からの疎開受け入れを長崎市に提案した。
 「裸の心を試される時期にきていると思う。本当に不安だと思っていることは何なのか、自分に向き合うことが大事」。変わるべき未来に向けて、今、地方都市と周辺の過疎の村をつなぐネットワークづくりを始めている。
 「原動力は人間に対する興味かな。人を深く理解することは、深く理解されることの必須条件。人間がお互いに興味を持ち合うのは、すごく自然。地球と人間の関係も同じでは」。シマカワさんの演奏と同じように、言葉が胸に響く。

写真/スイスの楽器・ハングドラムを演奏